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たとえ離れていても 11

「もしもし。夜分にすみません。迷子になっているMという飼い猫のことで、Nさんから電話番号を教わったWといいます」

声の主は、W様の旦那様だった。
予想通り、緊張と焦りの色が漂っている。

このままだと、W様の心身を浸食する疲労とストレスの悪影響で、適切な捜索の継続が危ぶまれてしまう。
そう感じたぼくは、少しでも落ち着いてもらおうと、あえてゆっくりと対応した。

「W様。お電話お待ちしていました。今、Mちゃんの捜索中ですか?」
「はい。歩き回っていたところ、Nさんからお電話を頂いたもので」
「そうですか」
「あの、是非とも捜索依頼をさせて頂きたいのですが」

歩きながら電話しているのだろう。
W様の呼吸が激しく乱れている。

ぼくは引き続き、ゆっくりとした口調で話した。

「W様。今、お一人で捜索をなさっているのですか?」
「さっきまで妻と一緒でしたが、今は、それぞれ別々の場所を捜しています」

Mちゃんを一刻も早く見つけたい気持ちは重々承知しているが、深夜帯の女性の一人歩きは決して安全だとはいえない。
もしも、W様の奥様がなんらかの事件や事故被害に遭ってしまったら、Mちゃんの捜索は継続困難になってしまう可能性があるし、それこそ旦那様のメンタルが心配だ。

だからといって、直接的にその危険性を伝えて、いたずらに不安を煽るのも得策ではない。
よって、さり気なく誘導するように、ぼくは話した。

「今捜索なさっている場所がどういった立地なのか、ぼくには分かりかねますので、詳しくお伺いさせて頂きたいのですが」
「あ……ごもっともですよね」
「できれば、旦那様が行っている捜索地域だけではなく、奥様が行っている地域についてもお教え頂ければと存じます」
「分かりました。一旦、電話を切らせて頂き、妻と合流します」
「そうして頂けると助かります。では、逸走時のことなどを含めたその他諸々についても知りたいので、奥様と合流し次第、折り返しのお電話をください。それと、メモのご用意も願いたいので、一度ご帰宅くださいますか」
「はい。では、のちほど」

一先ずは、誘導に成功した。

さてと。
ぼく自身もメモを取らなければならない。
インターネットを利用して、捜索場所の詳細を調べる必要も出てくる。

加えて、捜索アドバイスのご相談電話は、大概が短い通話で終わらない事情がある。
最低でも一時間はかかることが常で、長い場合は三時間越えに及ぶことも珍しくない。

ぼくはその場から引き返し、店に戻ることにした。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉