奥様が求めた同意に、旦那様も”うん、うん”と頷いた。
「本当にそうなんです。あの出来事を話す時にはいつも、Mは猛烈なアピールをしてくるんですよ。『一緒に連れてけ! 一緒に連れてけ!』って。普段は、いるのかいないのか分からないくらい大人しくて静かなのに」
ぼくは、W様ご夫婦が伝えてくれた光景を頭に描き、心に温もりを感じた。
「そうなんですね。それでは、ご迷惑でなければですが、又の機会には、ぼくの方からW様のお宅にお邪魔させてもらいます」
W様ご夫婦の表情が、ぱっと明るくなった。
「ぜひ、お越しください。Mも喜びます。ねえ」
奥様の言葉に、旦那様がやさしい目を浮かべた。
W様ご夫婦が、何故にここまで感謝なさっているかというと、それは、御二人がなによりも愛すべき存在に、ぼくが関与した過去があるからだ。
その存在とは、先程来W様ご夫婦が口にしている、”M”こと、愛猫様のMちゃんのことである。
W様から初めての電話があったのは、真冬の深夜だった。
猫様のシッターに伺ったお宅から帰社し、雑用を終えて帰る道すがら、ぼくの携帯電話に着信があった。
こんな時間に、誰だろう……。
ぼくは立ち止まって、電話をかけてきた相手を確かめようと、かじかんだ手で携帯電話を取り出し、画面に目をやった。
あっ。
そこには、見知った電話番号とお名前がならんでいた。
「もしもし。夜分に申し訳ありませんが、今、電話にお付き合いしてもらえる時間ありますか?」
声の主は、日頃から懇意にさせて頂いているNさんだった。
相変わらずな軽快口調につられるように、ぼくも寒さを忘れ、ハキハキと応じた。
「どうも、どうも。大丈夫ですよ」
「すんません。いつも突然で」
「いえいえ。ここ最近冷え込みが一段と厳しくなってきましたが、Nさん、お元気ですか?」
「おかげさまで、体調を崩している暇はありませんわ。そちらは、どうです?」
「お互い様ですね」
大阪にあるペット葬儀会社の社長さんであるNさんとは、以前に携わった、とある迷子猫様の捜索がきっかけで知り合った。
詳細を述べれば長くなるので、”今”に至るまでの経緯はまた別の機会に綴らせて頂くが、出逢って以来、こうして時折電話をもらう間柄だ。
「それでですね、電話した理由なんですが……」
Nさんが置いたこのわずかな”間”から、ぼくは用件の重みを察した。
「捜索相談ですね」
「そうなんです。今さっき、飼い主さんとの電話を切ったばかりなんですけどね、今回迷子になっているのは猫ですわ」
〈続く〉
あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように
富山桃吉