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サービスエリアの空の下 123

結局、声をかけるタイミングを計れないまま、時間ばかりが経過した。

ご年配の女性が動き出すのをただじっと待つ間、鈴音の音は何度か聞こえてきた。
鈴音を鳴らしている正体の姿は依然として目視できないが、鈴音が聞こえてくる方角から判断するに、先ほど来と変わらずの軌道で、こちらへと近づいて来ているように思う。

この人は、それに気づいているのだろうか……。

ご年配の女性が、ベランダの向こうに広がる草むらに何かを見ているのは確かである。
だが、だからといって鈴音を把握しているという確信は、未だに持てなかった。

たとえば、猫様ではないにしても、だ。
近づいてくる鈴音の正体が、なんらかの生き物であったとしよう。
ご年配の女性が、その生き物にエサをあげようとして縁側に出てきたのだとしたら、その手に何かを持っているはずである。
しかし、見たところ、手ぶらだ。

それでも、”いや、待て待て!”と、私は結論を急ごうとする自分を制する。
生き物がエサをいつでも食べれるよう、常時、ベランダのどこかに設置してあるのかもしれない。
その状態確認を、なんとなく見に来ただけ、という可能性もある。

私はもう一度、ベランダ周辺に視線を這わせてみた。
だいぶ錆びついている物干し竿台、使い古した植物プランターの数々、園芸用品類、壊れたストーブ、デコボコのヤカン、ボロ雑巾などが、あちらこちらに散らかっている。
その合間のどこかにエサを設置しているのかもしれないし、なんだったら、草むらに紛れさせて設置しているのかもしれない。
いずれにしても、私がいる位置からは、これ以上の確認は不可能であった。

また。
ご年配の女性が鈴音を把握しているかどうかの判断材料として、その表情にも、私は注目してみた。
仮に、鈴音が聞こえているのだとして、尚且つ鈴音を聞いたのが初めてだったとする。
だとすれば、ご年配の女性はもっと不思議そうに、場合によっては訝し気に鈴音の正体を探ろうとするだろう。

鈴音を聞くのが初めてではないのなら、どうであろうか。
自分に近づいてくる鈴音の正体に好意的な感情を抱いていれば、段々と柔らかい表情を浮かべるだろう。
反対に、鈴音の正体に対して好ましくない感情を抱いていれば、険しい表情で不快さを醸し出しているはずだ。
現時点で、ご年配の女性は私の存在に気づいていないのだから、表情を取り繕う必要もない。
だったら、尚更である。

しかしながら……。
ご年配の女性の顔には、上記いずれの表情の色も見えない。
よって、ご年配の女性が鈴音を把握しているのかどうか、私には判断がつかなかった。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉