晴れて名前を授けられた子猫様、レアちゃんを見つめるカップル様の表情は、やわらかな印象を私に与えました。
「レアちゃん、もう少しで終わるからねえ」
F先生の声かけに、レアちゃんも喉を鳴らして、大人しくしています。
そのタイミングで診察室に現れた看護助手であるF先生の奥様が、レアちゃんに微笑みを向けました。
「あらま。かわいい猫ちゃんね」
F先生が奥様に教えます。
「レアちゃん」
「あらま。かわいいお名前ね」
「さあ、かわいいレアちゃん。もう終わったよ」
診察が終わっても、レアちゃんは心をゆるし、お腹を見せながらゴロゴロしていました。
対照的に、カップル様は緊張の面持ちです。
私も倣って、居住まいを正しました。
奥様は机に向かい、カルテの用意をしました。
F先生は手を洗って、診断結果を私たちに告げました。
「僕が診たところですね、レアちゃんは健康な猫と違って、心臓に奇形が認められます」
私は少しの間まぶたを閉じてから、F先生に伺いました。
「先天性疾患……ですか?」
「うん。うまれつきだろうねえ」
カップル様は霞みがかった溜息を吐きました。
F先生は、紙と鉛筆を手に取りながら続けました。
「猫はね、ほかの動物よりも割合が少ないと言われているんだけれども、中には、生まれつき心臓病を抱えた状態で生まれてくる子もいます。心臓に先天性疾患を抱えている猫は、少し動いただけでも疲れてしまう傾向があります。レアちゃんのようにねえ……」
カップル様が鼻をすする音だけが、しんと静まり返った診察室に響きました。
暗く沈むカップル様の代わりに、私がF先生に質問をしました。
「心臓に疾患を抱えた状態ですと、この先、レアちゃんにどんな症状が見られますか?」
「あまり元気がなくなってくるし、食欲も落ちたりしてしまう可能性が考えられますねえ。咳が出てしまうケースも多いです。重い症状だと、苦しそうに呼吸をします。所謂、チアノーゼを発症してしまうので、元気だと思っても、傍で出来るだけ注意深く様子を見てあげた方がいいですねえ」
「そうですか……」
一日中付きっきりでレアちゃんの様子を見ていることが困難であろうカップル様に、それは難しいかもしれない……。
私が眉根を寄せると、F先生は言いました。
「それにしても、レアちゃんの様子の異変に気付いたのは感心ですねえ。先天性疾患の心臓病は、子猫のうちだと大人しいだけに見えて、飼い主さんでも気づきにくいものですからねえ」
「いや……たまたまです」
F先生の気遣いと分かりつつも、私は俯いてしまいました。
〈続く〉
あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように
富山桃吉