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風に揺れるヒマワリの咲く河原で 4

ボクのわずかな表情の変化に気づいた岡村が眉根を寄せる。

「どうかした?」
「いや、その……」
「ん?」

答えようとすると、背中の方から淡々とした声が聞こえてきた。

≪まったく、奥手ね≫
≪や、やっぱり!≫

はっとして振り向くボクに、岡村もO様もひなちゃんも一緒になって顔を向けてきた。
確信したボクは伺った。

「O様、ひなちゃんの他に猫ともお住まいですか?」
「あ、はい。ササっていうメス猫がおります。二階にいるのに、よくお分かりになられましたね」

ボク達が今いる場所はひなちゃんが横たわるリビングで、そこには猫を飼っておられる形跡は一つもない。
ただ、いつの間にか引き戸のリビングドアに隙間が空いていたのだ。
その隙間からボクの背中に鋭い視線を突き刺していたのがキジトラ柄のササちゃんだった。

≪それにしてもあんた、忍び足一級有資格者のアタシに気づくとはやるわね。Oさんだって、まだアタシに気づかなかったっていうのに。奥手な割に勘が鋭い男。その慎重さは嫌いじゃないわ≫

なんのこっちゃ分からないが、とりあえずは気に入られたらしい。

≪それにしてもあんた、これからしばらく妹のお世話するんでしょう?≫
≪妹って……もしかしてひなちゃんのこと?≫
≪決まってるじゃない。あんたね、妹のお世話をするなら身体に触れなくちゃ話になんないわよ≫
≪わかってるけど……≫
≪あのね、一見すると奥手ってピュアな印象を与えるから「彼、優しくていいかも」なんて思われがちだけど、だからって奥手なだけじゃいつまでたっても進展しないの。ううん。そのうちむしろ物足りなくなってきて「彼、あたしに興味がないのね」になる。で、結局最後はサヨナラ……。いい、アンタ!? 気づいた時に後悔しても、もう後の祭りなのよ!!!」

引き続き混乱してるボクに呆れたササちゃんの耳がピクッと動く。

≪ああ、もう男って面倒くさい! アイツもそんな感じだったわ!≫
≪アイツ?≫
≪あんたには関係ないでしょ!≫
≪あ、はい。なんか、ごめん≫

ササちゃんはプリプリした様子でドアの隙間から姿を消した。
釈然としないボクにO様が言う。

「ササは元ノラ猫で、保護猫の譲渡会で出逢って一緒に暮らすことになったんです。ひなちゃんよりも先住なんですよ」
「先住なんですね。だから妹って言ってたんだ」
「はい?」
「あ、いえ。ところでササちゃんの譲渡会での様子なんですが、他に仲が良さそうな猫とかいましたか?」
「さあ、どうだったかしら……。譲渡会主催のボランティアの方のお話ですと、ササはとにかくプライドが高い子なんで、仲良しの猫はいなかったって仰っていたような……」

さっきのボクに対する態度からすると合点がいく。

「ササは人馴れもしてないんで、ボランティアの方々も苦労してらっしゃったようです。だから里親がなかなか見つからなかったみたいで。ただ……」
「ただ?」
「一人のお若い男性が、譲渡会の度にササを見に来てたみたいです。ボランティアの方々もぜひ里親にと期待していたらしいんですが、ある日を境にぱったりと来なくなってしまったみたで……」

それが『アイツ』の正体かもしれないなあ。
なにがあったかは詳しくわからないけれど、その男性との突然の別れで、きっとササちゃんは寂しかったのだろうなあ。
その後にO様と暮らせるようになったのは不幸中の幸いだけれど……。
思いながらササちゃんがなくなったドアの隙間を眺めていると、ひなちゃんが鳴いた。

「ウオンッ!」

ボクとばっちり目が合う。

≪お姉ちゃん、あんな感じだけど本当はやさしいのよ。じゃなきゃ、人馴れしていないのにわざわざ様子を見にこないもの。だから大目に見てあげて≫
≪わかってる。大丈夫だよ≫

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ササちゃんは、大切な妹のひなちゃんのお世話に来る人間がどんな奴なのか心配で覗きにきたのだろう。

いいお姉ちゃんだ。
うん。
ササちゃんの為にも、ひなちゃんのお世話を一生懸命にさせてもらわなくちゃ。
ボクは決意をあらたにした。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉