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飼い猫様の窃盗 106

S君との会話がひとしきり終わった頃、いよいよ朝がやってきました。
ですが、雨は未だに止まないので、空は、夜の余韻を残した鈍色に塗りつぶされたままです。
それでも、家主様が起床なさるまでは、あと少しの辛抱です。

”頑張ろう! あと少し! 頑張ろう! あと少し!”

相変わらずS君にそう語り掛けながら、飼い主様宅に無事に運び終えるまでのシミュレーションを、私は頭に描きました。
想定されるアクシデントも含め、複数のパターンを考え抜き、いざという時に備えたかったからです。
とにかく、最大の障害は、私を捜し回っている男たちの存在に他なりません。

”大丈夫。約束するよ。S君を必ず無事に家に送り届けて、飼い主様と再会させてあげるからね!”

私の決意を聞いて、S君はこちらを見上げました。

すると間もなくして、庭に面した窓の電動シャッターが開く音がしました。

”起きてくれたみたいだね。ちょっと待ってて”

S君にそう言い聞かせ、めくっていた上着を、捕獲器にかけ直しました。
続けて、念のために、捕獲器のフラップが開かないかのチェックをしました。
その後に駐車スペースから移動し、目の前の道路に目を配って、誰かが歩いてこないかの安全確認を行いました。

……よし、大丈夫そうだ。

起床なされたとはいえ、時間はまだ早朝ですので、家主様のご家族のうち、誰かはまだ就寝中かもしれません。
故に、インターフォンを押すのはご迷惑かと思い、私は先ず、携帯電話に連絡を入れることにしました。

数回の呼び出し音が鳴った後、家主様が電話に出られました。

「おはようございます。こんな早朝に申し訳ありませんが……」

私が話している途中でしたが、家主様は事情を察知したらしく、口を開かれました。

「もしかして、捕獲器の中に、なにか入っていたのですか!? ひょっとして、S君!?」

家主様はS君の身が気になっていたようで、いきなりそう訊ねてこられました。

「はい。おかげさまで、S君を無事に保護できました」

歓喜に包まれたリアクションをした家主様に、私は続けました。

「それでですね、今現在、私は家主様宅の駐車スペースにお邪魔させてもらっています」
「え? 駐車スペースに?」
「はい。事情がありまして、庭の物置の傍から、捕獲器を移動させて頂きました」
「そうなんですね」
「それと、厚かましいお願いで恐縮ですが、ぜひとも相談に乗って頂きたいことがございまして……」
「分かりました。とりあえず表に出ますので、少々お待ちください」

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉