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飼い猫様の窃盗 116

もうすでに早朝というわけではないので、S君が待つ家主様のお宅付近に向かう道中には、そこそこの人通りがありました。
それ故、私は尾行者の有無確認に、さらなる神経を集中させながら運転しました。

「あそこが、S君が入った捕獲器を玄関内に置いて頂いているお宅です」
「そうなんですね! 早く会いたいです!」

降りしきる雨粒が流れる車窓越しにそのお宅を見て、そちらに待望の眼差しを向けたS君の飼い主様でしたが、そのお宅の前で私が車を停車させずに通り過ぎたので、不思議そうに尋ねてきました。

「……あの……どこへ?」
「私を捜し回っている男たちがいる話は、お伝えしましたよね?」
「ああ……」
「その男たちが、今も辺りをうろついていないともいえないので、念のために、一度通り越して、周囲を確認させてください」
「確かに、仰る通りですね。さすがです」
「慎重に越したことはありませんから」
「……あっ」
「どうしました?」
「いや。どうせ通り越すなら、一度、自宅に寄ってもらってもいいですか? しばらく留守にしていたので、換気や掃除をしたいなと思いまして」
「S君が戻るためには必要なことでしょうね。いいですよ。そちらに向かいます」

私は引き続き、尾行者の確認を怠らないようにしながら、S君の飼い主様宅へと車を走らせました。
S君の飼い主様宅を男たちに知られる危険は是が非でも避けなければなりませんし、私と関係がある人間として認識されなければ、S君の飼い主様の安全を確保できるからです。
そう考えた時、ふと一つの案が浮かび、私はS君の飼い主様に聞きました。

「つかぬことをお尋ねしますが、車の免許はお持ちですか?」
「はい」
「今、免許を携帯しています?」
「ありますよ。財布の中に入れっぱなしなので」
「でしたら、私に考えがあります」
「なんでしょう?」
「やはりもう一度、S君が待つ家主様のお宅に戻らせてください。安全が確認できた後、私はそこで降ります」
「それで?」
「車を運転して、ご自宅に向かってください。そのまま諸々の用事を済ませたら、S君が待つ家主様のお宅に再び戻って頂けたらと思います」
「そっか……そうですよね。一人で車を運転していても、こちらの顔を知られてない以上、男たちになんら怪しまれませんね」
「そういうことです。男たちに目撃されるという万が一の事態を想定すれば、その方が安全でしょう」
「分かりました。そうしましょう!」

数分後、S君が待つ家主様のお宅の前で、私はすばやく車を降りました。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉