新着情報

飼い猫様の窃盗 118

家主様が玄関を開けると、途端に、S君の飼い主様は深く頭を下げられました。

「この度は、Sを保護するために捕獲器を設置させて頂いたり、その後も預かって頂きまして、大変ご迷惑をおかけしました」
「そんな。そんな。大したことしてませんよ」
「いや。皆様のご協力を頂けなければ、Sを保護できませんでした。これ、よかったらお受け取りください。急いで戻らなければと思い、近所の品で申し訳ありませんが……」

どうやらS君の飼い主様は、ここへ戻る途中に御礼の品を買いに行ったようで、家主様に差し出したそれは、駅前の小さな洋菓子店でご購入された焼菓子の詰め合わせだそうです。

「まあ、うれしい! 家族みんな、このお店の焼菓子が大好物なんですよ」
「それは良かったです」

S君の飼い主様から品を受け取った家主様は、作り笑顔ではなく、心底喜んでいるように見えました。
その姿に微笑んだS君の飼い主様は、再び、頭を下げて続けました。

「ちゃんとした御礼は、退院でき次第、あらためて伺わせて頂きます」
「この焼菓子で充分ですから、本当に、これ以上はお気を遣わないで。それよりも今は、この子のためにも、早く退院できることに全力を傾けてください」
「ありがとうございます」
「この子も、それを願っていますよ」

会話の流れで、家主様は捕獲器に目をやりました。
つられて捕獲器を見たS君の飼い主様が、私に聞きました。

「……この中に、Sがいるんですね」
「はい。暗くしてあげた方が安心できると思い、捕獲器ごと毛布でくるませて頂きました」
「先ほど、車から降ろした荷物はこれだったんですね」
「そうです」
「Sのために、何から何までありがとうございます」
「いえいえ。当然のことをしたまでです。今、毛布をめくりますね」
「お願いします!」

感動の再会を心待ちにしていたS君の飼い主様の目には、この時すでに、涙が浮かんでいました。
そしてその涙は、私が毛布をめくり終えると、一気に溢れ出しました。

「……S……S!」

ずっと聞きたかったであろう自分の飼い主様の呼びかけに、S君も鳴き声で答えました。
そのまま立ち上がり、捕獲器の網目からS君の飼い主様が入れた指に、顔や身体をすりつけています。

「S! 迷子になっている間、よく頑張ってくれたね! ありがとう! ありがとう! 生きて帰ってきてくれて、本当にありがとう!」

S君の飼い主様とS君の姿に、家主様はもらい泣きをしておられました。
私はただただ、この瞬間を、しばらく見守り続けました。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉