「ダメだ……留守番電話になっちゃった」
唸る岡村を横目に、私は再びB君の飼い主様に電話をかけました。
ところが、今回もまた、10コール目で留守番電話に繋がってしまいました。
スマフォを耳から離した私を見て、溜息と同時に、岡村が漏らしました。
「出ないか……」
「うん」
「出れない状況なのかもよ」
「……男たちのせいで?」
「いやいや。たとえば、そうね……入浴中とか」
その可能性も無くはないでしょう。
ほかにも、運転中だとか、電車やバスで移動中だとかも考えられます。
あれこれ考えて無言でいる私に、岡村がいいました。
「まあ、どのみち着信履歴が残っているんだから、気づいた時点で折り返し連絡をくれるんじゃない? 向こうがこっちを避ける理由は見当たらないわけだし」
「結局、待つしかないか……」
私は、店の時計に目をやりました。
20時を過ぎた時間でした。
この時間なら、B君の目撃地点には1時間ちょっとで到着するはずです。
そんな私の考えを察知したのでしょう。
岡村が、怪訝そうに聞いてきました。
「……行く気でしょう? 今から、B君の捜索地点に」
隠しても仕方がありません。
私は頷きました。
「様子見程度だけど、行ってみようかと。途中で、B君の飼い主様から電話がかかってくれば、男たちのことを伝えて注意を促すつもり。まあ、すでにB君を保護できていれば、現地に赴かずに、そのまま帰宅する」
「車で行くつもり? 電車で?」
「車かなあ。自分の車は、男たちにはまだ知られていないだろうし」
「でも、S君の飼い主様と同乗したわけでしょう? それを見られていたかもしれないじゃない?」
「常に周囲を警戒してたから、多分、大丈夫だと思うけど……」
「念には念をってことで、うちの車、貸そうか?」
万全を期す、という意味では、その方がより安全かもしれません。
私は、岡村の好意を受けることにしました。
「じゃあ、借りることにする」
「分かった。じゃあ、待ってて。車とってくるから」
「いいよ、自分で行くから、鍵貸して。今夜は、店で泊まりのお世話番でしょ?」
私がいうと、岡村はにやりとしました。
「代わりのスタッフは手配済みだから、大丈夫」
「は? ……ってことは、もしかして……」
私の予想は的中したようです。
岡村は、意気揚々といい放ちました。
「そう! 一緒に、現地に向かう!」
「いやでも、男たちがうろついているかもしれないし……」
「私のことまでは、さすがに分からないでしょう。それに、いくら危ない奴らだといっても、男たちだって、見ず知らずの一般人をいきなり襲う真似はしないって」
〈続く〉
あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように
富山桃吉