「目ヤニを取ってあげるから、ちょっと大人しくしていられる?」
私の言葉に従い、茶トラ猫様は警戒することなく、じっとしてくれていました。
ゆっくりと丁寧に目ヤニを引き取ってあげられた後も、茶トラ猫様は私の傍を離れようとしませんでした。
時折、小さな鳴き声をあげては、こちらを見上げてきます。
「ひょっとして、お腹が減っているの?」
この茶トラ猫様は、”誰か”にエサをもらっているのかもしれません。
だとすれば、やけに人懐こい性格なのも頷けます。
その”誰か”が、S君の飼い主様に電話をかけた女性である可能性があるので、私はもうしばらくの間、この場に留まることにしました。
”いつも、この時間にエサをもらっているの?”
”いつも、誰にエサをもらっているの?”
”キミのほかにも、エサをもらっている仲間はいるの?”
私の問いかけにおかまいなく、茶トラ猫様は毛づくろいを始めました。
まるで、”エサをくれないなら、教えてあげないよーだ!”といわんばかりです。
今日持ち歩いている鞄の中には、目ヤニを取るために先ほど取り出したペット様用のウエットシートやガーゼをはじめとする応急処置グッズなどと一緒に、猫様用のフードも入っていました。
ただし、この公園のあちこちに立っている看板には、”野良猫へのエサやリ禁止”と書かれています。
それを、無視はできません。
エサを与える代わりに、エサやリの女性やS君の情報を茶トラ猫様から聞き出せればなあ、と妄想しながら、私は待ちました。
そうこうしているうちに、気づけば、何匹かの野良猫様が集まってきました。
みんながみんな、私にすり寄ってくるわけではありませんでしたが、それにしたって、大した警戒心を抱いているようには見えません。
この野良猫様たちも、おそらくは、”誰か”にエサをもらうために集まってきたと判断できます。
となると、”誰か”が、誰なのかは分かりませんが、もうそろそろ、この場に現れるはずです。
どうするべきか、私は考えました。
こうしてベンチに座ったままだと、現れた”誰か”は、エサやリ行為を私に咎められると警戒し、逃げてしまうかもしれません。
そうなると、S君の話を聞けるせっかくの機会を失ってしまいます。
それだけは避けたかったので、私は一先ず、さっき立ち寄った公衆トイレ内に移動することにしました。
そこから、このベンチ周辺に監視の目を光らせ、エサやリに現れた”誰か”の様子を伺いたかったからです。
〈続く〉
あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように
富山桃吉