「探さないってどういうこと!?」
彼に対する私の声色は感情の乱高下でするどく尖った。
それでも彼はきょとんと返してきた。
「だ?か?ら?探さないってこと! そのまんまの意味だよ」
「それじゃ答えになってない! 大丈夫って言ったじゃん!」
「だ?か?ら?大丈夫だって」
「なにが大丈夫!? 里親さんを見つけられないとあのシニア犬を助け出せないんだよ!?」
「わかってるって?」
「わかってない!」
「わかってないのはそっちだろ?」
私達のやりとりを制したのは女性だった。
「私からももう一度お聞きします。里親さんを探さないで、一体どうやって収容施設からワンちゃんを救い出すおつもりなのですか?」
彼はこれ見よがしに腕を組んだ。
「灯台下暗し! オレ達の誰かが里親になればいいし!」
「あ……そうですね。そうですよね!」
彼につられて私も女性もニカッとした。
これでとりあえずは殺処分を免れる!
「悪くない案だけどねえ。で、誰が里親になってくれるんだい?」
私と彼と女性とが一斉に挙手した。
「くっくっく。あんた達にそこまで想われて、そのシニア犬は幸せ者だねえ」
「そう……ですかね?」
そう言われても、私達三人には実感がなかった。
シニア犬の『幸せ』の為に汗をかこうとしたわけではなく、ただただ『不幸せ』からの脱却だけを考えていたからだ。
「くっくっく。幸せのカタチは一つじゃないってことだねえ」
一つじゃない。
確かにそうだ。
ただキミを想う気持ちがここに四つある。
キミの明日や明後日が在ることを願う私達の四つの想いがここに。
「だったらこうしようじゃないか。そのシニア犬の一先ずの里親はあんた達の誰かってことで引き出し交渉をする。その代り引き出したらそのまま連れて帰っておくれよ。なんせ、家で引き受けられる頭数は限界なんだからねえ」
私の返事は自然と弾んだ。
「もちろんです!」
「それから、もし飼い主が見つからなくても一生面倒みる約束をしてもらうからねえ。シニア犬で病気を患っていると病院代もバカにならない。だからって、やっぱり面倒見きれないは通用しないよ。いいねえ!?」
「私の犬の介護経験を無駄にはしません!」
ゆるぎない決意が込められた女性の言葉が頼もしい。
「それじゃあね、早速、明日にでも収容施設に連絡入れとくからねえ」
「よっしゃ! オレ達は飼い主捜しの続きに向かうとするか!」
それはそれは蒸し暑い夏の夕暮れ空に手を伸ばし、私はニカッとしながらありったけの想いを放った。
「ねえ、キミ! キミは独りじゃないからね!」
再び歩き出した私達の背中に、セミ達が大合唱を奏でながらエールを送ってくれている。
〈続く〉
あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように
富山桃吉