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「はじめまして」が繋ぐもの 12

数日後、私と女性は愛護団体の代表の方と一緒に収容施設を訪れた。
シニア犬の飼い主捜索で連日仕事を休んでいた彼は不在だ。
仕事が終わり次第合流する約束になっている。

「あんた達はちょっと待ってな」

代表の方がシニア犬の引き出し手続を終えるまでの間、私達は車で待機する事になった。
しばらくの沈黙が流れた後、女性が口を開いた。

「いよいよ再会ですね」
「そうですね……」
「どうしたんです?」

私の声が曇っている事を案じた女性が首を傾げている。

「いや……なんていうか……気分が良くなくて」

それは紛れもない本心だった。
シニア犬との再会は素直に喜ばしい。
結局、飼い主をまだ見つけられていないが、とりあえずはシニア犬の命を繋ぐ事ができたから。
それはそれとしても……だ。
目の前にそびえる施設の壁の向こうに思いを巡らせれば、やはり私の声は重くなる。

「この場所で幾つもの無垢な命が殺処分に怯え、無念にも消えていったのかと思うとやりきれなくて」
「同じ思いです。人はなぜ……」

女性が言いかけた途中で、代表の方が戻ってきた。

「担当職員の人が直ぐに連れて来てくれるから、玄関ロビーに行こう」

扉をくぐると、消毒臭と獣臭が鼻をついた。
幾つかの鳴き声が耳を貫いた。
無機質な壁が瞳にこびりついた。
その全てを含んだ空気が全身にまとわりついた。
どれもが初めての体験で、どれもが二度と味わいたくない体験だった。
不気味でおぞましく、無力で狂おしく、痛いのにこみ上げて、落ちては見失う。
一秒でも早くこの場を立ち去りたいという心をかきむしりながら、私は私の『生』を鼓舞するので精一杯だった。

「イヤな所だろう。けど忘れちゃならないよ。絶対に」

代表の方の声が胸の真ん中と脳天の真ん中に突き刺さった。
それを頼りに私はなんとか踏ん張った。
踏ん張った!
踏ん張った!!
踏ん張った!!!
やがてドアの向こうからロープを握った職員が現れた。
そのロープの先に、繋がれたシニア犬がいた。
出逢った時のまま、歩く度に耳をひょこひょこさせながら私達の元へ歩いてくる。

「キミってば、相変わらずのおとぼけ顔だなあ」

変わらぬ姿に声を震わせる私。
穏やかな顔で見守る女性と代表の方。
そんな私達に向けて、キミはかすれた声でバフッと鳴いてくれた。
懐かしくて、愛おしくて、私は跪く。

「大丈夫。私はキミの事が好きだから」

キミの命を抱きしめた途端、景色が滲んで見えなくなった。

<続く>

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉