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「はじめまして」が繋ぐもの 8

夕闇迫る頃、他のエリアで捜索をしていた彼と合流し、チラシ作製を終えた女性の元へ向かった。

「チラシ、こんな感じでいかがでしょう?」
「おお! いい感じですね!」

私と彼の言葉に女性ははにかんで続けた。

「それと、近隣の地図を出しておきました。チラシを配布したエリアや情報提供があった場所を記して捜索の的を絞っていければと思いまして」
「いいアイデアですね」
「じゃあ早速、書き込もうぜ」

彼が地図に記している間、私と女性は今後の対策を練った。

「チラシ配布や聞き込み捜索以外に出来る事って、他にどんな事があるのでしょうかね?」

女性の質問は私もずっと考えていた事だった。

「正直、これといった方法が思いつかない次第で……」
「店舗関係にもチラシ掲示のお願いはしてあるんですよね」
「はい。まあ、お断わりされるケースもありますが、動物想いのオーナーさんがいる店舗にはご協力頂いてます」
「これまでの情報提供って、どんなものが?」
「公園で似ている犬を散歩していたのを前に見たことがあるですとか、どこどこの飼い主さんが捨てたに違いないですとか」
「実際に確認はなさったんですか?」
「はい、一応は。ただ、どれも空振り情報でした」
「となると、飼い主さんは今まで配布したエリア外にお住まいの可能性が高い?」
「否定はできません。あまり考えたくはないのですが、もしも意図的だとしたら、自分が住んでいる近所に犬を遺棄するとは思えません」
「そうですよね。近所すぎると、ワンちゃんが自力で帰宅するかもしれないですものね」
「はい。顔見知りの散歩仲間に保護されることも考えられますし。意図的な遺棄ならば、飼い主さん本人からよりも、そっちの目撃情報の方が期待出来るんじゃないかとは思っています」
「そうかもしれませんね。それにしても、万が一遺棄だとしたら……飼い主さん、無責任すぎです!」
「同感です。けれどまあ、捜索する上でネガティブ思考は邪魔になるので、今は怒りを封印中です。怒りからは何一つポジティブがうまれないですし」
「本当に出来た方ですね」
「そんな褒められた人間じゃないですよ」

実際にそうだ。
経験で分かっているはずなのに私は何度も失敗を繰り返す。
腹を立てたり固執したりして、こじらせてしまう。
本当は簡単な事なのに、わざわざややこしく考えてしまう。
想いを上手に伝えられなかったり、分かってくれるだろうと身勝手に安心して失ったりする。
その度に自省して、今度こそはと誓う。
なのにまた失敗を繰り返して、ちっぽけな誓いだったと自責の念に駆られる。
どうしようもない不甲斐なさに毎度呆れながら。

「だから……そんな褒められた人間じゃないからこそ、自分以外の人には言えるんです。大切なものを失わないように、ポジティブな意見を。言霊ってやつです」
「分かる気がします。汚い言葉を吐くと、なんだか心まで汚れて気が重くなる感じですよね」
「そうです。そうです。だからポジティブにいきましょう!」
「なあ、これをポジティブに捉えろって言われてもオレには難しいぞ」

口を挟んできた彼を見ると、自分の頭を指さしている。

「どこぞの鳥がオレの頭にフンを命中させやがった。なあ、教えておくれよ。オレはこの不愉快な事態をどうポジティブに捉えればいい?」
「それはほら、よく言うじゃん。ウン〇がついたから運がついたってことにすれば?」
「そうですよね〜。そうですよね〜。うん、うんってなるかーい! だってよ、ほら、地図にもウン〇が命中してるんだぜ!」
「それは大変!」
「それはって……オレは!? オレも大変よ!?」

ワナワナしている彼から地図を取り上げた私は女性にお願いした。

「なんでもいいので、拭き取るものを拝借できますか?」
「はい。ちょと待っててください。直ぐに取ってきます」

拝借したウエットティッシュでウン〇を拭き取った地図を女性に預け、私はついでに彼の頭も拭いてあげた。

「ありがとうね〜。ありがとうね〜って、同じウエットティッシュで拭くんかーい!」

彼が憤慨していると、やにわに女性が声をあげた。

「あっ! そうだっ! その手があった!」
「どの手……ですか?」

きょとんと聞く私と彼に、女性は地図上のウン〇を拭き取った箇所を示した。

「この人に頼めば何とかしてくれるかもしれません!」
「何を……ですか?」

ぽかんと聞く私と彼に、女性は笑みを投げかけてきた。

「ワンちゃんのことです!」

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉