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「はじめまして」が繋ぐもの 9

女性は時間を確認してから、私達を誘った。

「この時間ならまだいらっしゃるかもしれません。ついてきてください。理由は向かいながら話します」

私達は訳も分からず、肩で息をしながら歩き出した女性について行った。
女性が私達を連れて行こうとしている先方との出会いは数年前に遡るという。
女性と暮らしていた犬がまだ生きている頃の話だ。
歩けなくなった犬をスリングに抱えて散歩している途中、突然話しかけられたのがきっかけだったらしい。

「その方、開口一番こう言ったんです。『あんた達、幸せだねえ』って。『ありがとうねえ。わけてもらった幸せは、家の子達にもちゃんとわけておくからねえ』って」

自分の子ども達にという意味だろうか?
首を傾げる私と彼。
女性は一つ呼吸を置いてから続きを話した。

「本当の事を言えば、最初は理解ができませんでした。歩けなくなった犬が幸せなはずないって。最後まで自分の足で歩かせてあげたかった。歩けなくなる前に飼い主として出来る事があったんじゃないかって……。後悔で落ち込む日ばかりでしたから」

適当な言葉が見つからず、私達は黙ったままだった。

「その方と出会ってからしばらくして犬は亡くなりました。ペットロスに陥って、何にも手につかず、ただただいつもの散歩道を独りきりで歩く日々が続きました。そんな折、偶然にその方と再会しまして。そうしたら、その方、空っぽのスリングを見ながら仰ったんです。『あんた達、幸せだねえ』って。『ありがとうねえ。わけてもらった幸せは、家の子達にもちゃんとわけておくからねえ』って。笑われるかもしれませんが、『幸せだった』じゃなくて、『幸せだねえ』って現在進行形で仰るものだから、救われた気がして。おかげで今の私が在ります」

その方はそれ以上何も言わず、クシャクシャの名刺を渡して帰ったそうだ。

「今からその方の元へ訪問します。動物愛護団体の代表の方で、殺処分されてしまう犬や猫を救う活動をなさっています。里親希望者が現れにくいシニアでも病気やケガを患っている犬や猫でも選別なく引き出す方なんですよ」
「へえ。立派な志ですね」

素直な感想だった。
里親が決まりやすい子犬や子猫、血統書付の犬や猫は引き出されやすいだろう事は想像がつく。
けれど皆同じ命だ。
救える命に順位を付けない事を当たり前に行っているその方に対して、私の興味は俄然膨らんだ。

「どこに向かっているかは分かったけど……で、何でオレ達はその人に会いに行くんですかね?」
「万が一、ワンちゃんの飼い主さんが現れなかった場合に備えてです!」

なるほど!
第三者である私達があのシニア犬を収容施設から直接引き出せないのは聞かされていた。
だからこそ、私達は余計に焦っていたのだ。

「公に認められている動物愛護団体ならば引き出しが可能です。だからその方にお願いしましょう! 了承してもらえれば、収容期限になってもあのワンちゃんの命は繋がります!」

飼い主さんを捜す事だけに夢中になっていた私と彼が思いもつかなかった方法を彼女は提示してくれた。

「あの鳥め、本当に運をつけてくれやがった!」

自然、私達は駆け足になった。
キミを救える!
収容施設から引き出せれば、キミの飼い主さん捜しも継続できる!
月明かりが希望の灯りと重なって、私は早くも涙がこぼれそうになった。

けれど……。

「申し訳ないねえ……今、家では引き出してやれない」

その方の予想外の返答に私達は言葉を失った。
希望の灯りは霞み、いつの間にか月明かりは雲に覆われていた。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉