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「はじめまして」が繋ぐもの 3

疲労が気力を追い越したのだろう。
ほどなくして、シニア犬の歩みが止まった。

「大丈夫、キミ? 私は大丈夫じゃないけど……」

原稿提出の締め切り日に迫られていた私は連日の徹夜続きがたたり、既に体力の限界をむかえていた。

「キミも喉が渇いたよね……」

とはいえ、迷子のシニア犬から目を離して水を買いに行くわけにはいかない。
とはいえ、シニア犬に一刻も早く水分を取らせてあげなければ!
どうしたものか……。
最上の解決策を求めて、私の思考が迷子になっている。
……ん?
迷子……?
迷子……あっ、そうか!
私は携帯を取り出し、履歴から馴染みの番号を表示して耳を押し当てた。

「はいよー。どうした?」

幼馴染の彼はいつもそうやって電話に出る。
何年経っても変わらない。

「あのさ、実は迷子になっちゃってさ」
「は?」
「だから、迷子に……」
「だから?」
「だから……」
「あのさ、今ちょうど三分経ったんだ。麺がのびちゃうから切るぞ。暇つぶしの電話ならカップラーメン食った後に付き合ってやるから。じゃあなー」
「ちょっと待った!」

慌てた私はシニア犬とのあらすじを伝えた。

「で、オレにどうしろと?」
「水を持って、直ちに迷子の私達を助けにくればいい」
「今すぐに?」
「今すぐに。車で」
「で、その後は?」
「私と一緒に、このシニア犬にとっての最上の解決策を探せばいい」
「で?」
「……で?」
「最上の解決策が見つからなかったら?」
「より良き解決策を探せばいい」
「それも見つからなかったら?」
「程よい解決策を探す!」
「で、それすらも見つからなかったら?」
「まあまあな解決策で」
「わかった。とりあえずカップラーメン食ってから向かう」
「いや、今すぐで」
「いや。嫌」
「いや。嫌」
「じゃあ、食いながら向かう」
「それなら『まあまあな解決策』だから許す」
「わかった。待っとれ」
「わかった。待っとる」

電話を切って、『まあまあな解決策』をシニア犬に報告した。

「とりあえず、彼が来るまで座って待ってなよ」

シニア犬がそっと腰を下ろした。
私はほっと胸を撫で下ろした。

「キミもお腹減ったよね……」

シニア犬が上半身をすっと地面に下ろした。
私は手荷物をだらっと地面に下ろした。
束の間、シニア犬が振り返って立ち上がった。
車のハイビームが私達を狙う。
彼がもう助けに来たのか……いや。
距離を考えると、いくらなんでも早すぎる。

「……誰だろうね? あっ、ひょっとしてキミの飼い主さんだったりして!?」

シニア犬が吠えた。
途端、運転席と助手席のドアが同時に開いた。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉