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たとえ離れていても 10

Nさんが口にした開業経緯は、ぼくがメビー・ラックを立ち上げた経緯(詳細は、当ブログ『「はじめまして」が繋ぐもの』シリーズを参照)とそっくりだった。
誠実さのかけらもなく、詐欺まがいの捜索が横行するペット探偵業界。
その現状に対して我慢ならず、必死に汗を流した日々が、”今”に繋がっている。

メビー・ラックは”今”、おかげさまで、たくさんのペット様たちから愛くるしさという癒しを頂戴している。
メビー・ラックは”今”、おかげさまで、たくさんの飼い主様方から感謝を頂戴している。

そのすべてが、ぼくたちメビー・ラックのスタッフのやりがいであり、よろこびである。
同様の想いは、Nさんの会社のスタッフの方々も抱いているということを、昔聞いた。
だからこそ、ぼくらは信頼のおける間柄なのだ。

「じゃあ、こちらから飼い主さんに連絡入れますわ」
「分かりました。お待ちしてます」
「はい。よろしくお願いします」

Nさんは、ぼく直通の電話番号をW様に伝えるといって、一度電話をきった。

W様からの折り返し電話を待つぼくの身体を、冷たい北風が撫でるように通り過ぎていく。
その行く末を眺めていると、立ち並ぶマンションの脇から、一匹の野良猫様が顔を出した。

”寒いね”

それとなく発したぼくの語り掛けに、猫様は立ち止まった。

”なにしてんの?”

野良猫様がそう訊ねてきた気がして、ぼくは答えた。

”電話がかかってくるのを待ってる”
”ふーん”
”そっちは? どこ行くの?”
”とくに、行くあてなんかないけど”
”そっか。なんにしても、車に気をつけて”
”お気遣いどうも”

野良猫様はぼくから視線を外して、再び歩き出した。
どうやら、車道を渡って、べつのマンション脇を目指しているようだ。

その後ろ姿を眺めながら、迷子中のMちゃんのイメージを頭に描いた。
まだ、どんな猫様かを詳しく聞いたわけではないが、その姿をなんとなく思い描けた気になっていると、さっきの野良猫様が振り向いた。

”なにしてんの?”
”想像してる”
”なにを?”
”迷子になっちゃった、Mちゃんって猫様のこと”
”ふーん”
”どこ行っちゃったんだろうね……”
”どこにも行ってないんじゃない”
”なんで?”
”だって、とくに行くあてなんかないから”
”そうかな。飼い主様の元へ帰ろうとしてるんじゃ?”
”あ、室内暮らしの猫か”
”おそらくは”
”じゃあ、余計にほかに行くあてなんかないだろうね”
”……いわれてみれば、そりゃあそうだ”
”まあ、そういうこと。見つかるといいね”
”お気遣いどうも”

野良猫様は結局、マンションの脇に入って行って、そのまま姿を消した。

冷たい北風が、再びぼくを撫でるように通り過ぎた時、携帯電話の着信音が鳴った。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉