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たとえ離れていても 12

ぼくは店についてすぐ、ライク(詳細につきましては、『「はじめまして」が繋ぐもの 1』シリーズを参照)の写真に手を合わせた。

”ただいま。また戻ってきた”
”どうしたの?”
”Mちゃんていう猫様が迷子になっちゃってるらしいんだ”
”かわいそうに……無事に見つかるといいね”
”うん”

束の間、ライクに報告をしていると、W様からの折り返し電話がきた。

「もしもし。Wです。お待たせしてすみません」
「いえいえ」

折り返し電話がかかってくるまで時間を要したのは、おそらく、Mちゃんが未発見である以上、捜索現場を離れることに躊躇があったのだろう。
一刻も早く発見したいという想いが募るのは当然だ。

しかしながら。
ぼくの立場からすれば、Mちゃんを無事に発見・保護できるまでの間、W様ご夫婦の身を案じることも無視できない。
同時に、無料相談電話とはいえ、ぼくの言動一つで捜索の行方を左右してしまう責任に、あらためて気を引き締め直した。

「それでは。早速ですが、Mちゃんの逸走状況をお聞かせください。先ず、捜索は今日で何日目になりますか?」

あえて、”迷子に気づかれた”とか”迷子になった日”いう表現を用いないのには訳がある。
今現在のW様ご夫婦の心理状況を鑑みれば、言葉選びは慎重にならざるを得ないからだ。
加えて、ほんの少ししか会話をしていないW様ご夫婦とぼくはまだ、お互いのことを充分に分かり合えているとはいえない。
そんな中、御二人が”自分たちが迷子にさせた”という負い目を感じるような表現は避けたかった。

「ええと……捜しはじめてから、今日で五日目になります」

カレンダーをちらりと見やり、ぼくはペンをさっと走らせ、ヒアリングシートに記入した。

「では、さっきまで捜索をなさっていた場所は、W様のご自宅からどのくらいの距離でしょうか?」
「正確な距離は……ちょっと分かりません」
「時間で表して頂いても構いません。たとえば、”徒歩で何分くらい”ですとか」
「ええと、十分くらいです。妻の方は……。あのさ、クリーニング屋の近くにいたんだっけ?」

受話口から顔を離し、奥様に確認しているようだ。
少しして、旦那様が答えた。

「二十分くらいの距離だそうです」
「ありがとうございます。ところで、そちらの今のお天気はどうでしょう?」
「曇っています」
「一日中、曇っていましたか?」
「いいえ。妻がいうには、午前中は曇っていたけれど、午後から夕方にかけては小雨が降っていたようです」

奥様の言葉となると、旦那様はきっとお仕事かなにかで、捜索現場付近に一日中いらっしゃったわけではなさそうだ。
日中から夜にかけて働き、帰宅してすぐから深夜帯に至るまで捜索に着手しているとすれば、この五日間は充分な睡眠時間をとれていないと推測できる。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉