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たとえ離れていても 5

「御二人とも、どうか、頭をお上げください」

そう伝えたぼくの言葉に恐縮なさりながら、W様ご夫婦はおもむろに元の姿勢に戻られた。
続けざま、旦那様が奥様に視線を送った。
すると、奥様は手にしていた紙袋をぼくに差し出してきた。

「これ、つまらないものですが、どうぞお受け取りください」
「もったいない。そんなにお気を遣って頂かなくても」
「いえいえ。そう仰らずに。お口に合うかわかりませんが、受け取って頂けたら幸いです」

奥様と旦那様の眼差しには、懇願するような色が溢れている。
それを、いたずらに無下にすることが憚られ、ぼくは手を伸ばした。
受け取った紙袋の中身は、甘い香りが魅力的な手土産だった。

「わあ、美味しそうですね。どうも、ありがとうございます。うちのスタッフたちは甘党が多いので、よろこびます。とくに、代表の岡村は」
「それは、良かったです。皆様でお召し上がりください」
「はい。そうさせて頂きますね」

和やかな雰囲気に包まれたのも束の間、奥様は真顔になった。

「本来ならば、もっと早く出向いて、きちんと御礼を申し上げなければと思っていました。なのに、ご訪問が遅れてしまいまして……」

W様ご夫婦からかかってきた最後の電話で、実際に、『いつかお会いできれば』という旨の話を頂いた。
もちろん、ぼくもお会いできればとの想いがあった。

しかしながら。
ぼくの記憶によれば、W様ご夫婦は共働きである上、随分とお忙しいお仕事だったはずだ。
加えて、W様がお住まいになっている場所は、メビー・ラックがお店を構えている東京都三鷹市から、かなりの距離がある。

ぼくの方も、最後の電話以降、おかげさまでメビー・ラックの業務に追われる日々が続いていた。
故に、双方共、なかなか時間を作れない事情があった。
そうこうしているうちに、月日だけが流れていった次第だ。

そんな中、W様ご夫婦は他県からいくつもの電車を乗り継ぎ、こうしてわざわざお越しになってくれた。
ぼくは、ただただ、その想いがうれしかった。

「本当は、Mも一緒に連れて来て、ぜひともお会いして頂きたかったのですが……」

奥様のお気持ちを察し、ぼくは笑顔で返した。

「お気持ちだけで結構ですよ。本人の負担になってしまってはいけないですし」
「きっと、Mも自分で感謝を伝えたかっただろうなと思うんです。今日も、こちらに出掛ける際に、私たちを見上げてしつこく訴えてきたんですよ。『一緒に行きたい』って。それをなだめるのに、私も旦那も一苦労でした」

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉