足早に退避する私と中型犬様の後ろから、追いかけてくる二匹の犬様たちの吠え声がぐんぐんと近づいてきます。
ちらりと振り返ると、二匹の犬様たちの目は獲物を狙うそれ、そのものでした。
このままでは、追いつかれるのも時間の問題だ……こうなったら!
覚悟を決めた私は、連れている中型犬様に告げました。
”走るよ!”
一か八か、私は走り出しました。
とはいっても、一気にトップスピードで駆けるわけにはいきません。
急に全速力で走れば、中型犬様が思わぬ怪我をしてしまうリスクがあります。
よって、始めはゆっくりとした速度を保ち、徐々にスピードを上げながら、どこを目がけて走るべきかを私は考えました。
忘れてはならないのは、西園の競技場付近にいる人たちを巻き込まないようにすることです。
そうなると……追いかけてくる犬様二匹の速度を落とす狙いで、400mトラックの周囲に植わっている木々の中に飛び込むのも一つの手でしょう。
しかしながら、暗がりのそこに飛び込めば、中型犬様が草木に身体をこすって傷を負ってしまいかねません。
かといって、西園の競技場内を出て歩道や道路に逃げればいいのかといえば、それも良い選択肢とは思えませんでした。
歩行者がいた場合、その人も、追いかけてくる犬様二匹に襲われる危険があります。
また、何かの拍子で道路に飛び出してしまえば、追いかけてくる犬様二匹が車に轢かれてしまう可能性だって否定できません。
それは、私の望むことではありませんでした。
いくら追いかけられているとはいえ、犬様二匹に恨みや怒りを覚えているわけではないからです。
悪いのは、そう、公共の場所でノーリード散歩をし、しかも注意を怠っていた飼い主様なのです。
とにもかくにも、です。
退避に適していそうな先は限られましたが、それでも諦めずに、私は目指す場所を選択しました。
”おいで、こっちだ!”
大きく弧を描き始めた私に、中型犬様はしっかりとついてきてくれました。
”よし、いい子だ! つぎは、こっちについてきて!”
目指そうとしている場所を目がけて、今度は一直線に進路を取りました。
振り返ると、追いかけてくる犬様二匹も、それについてきました。
ここまでは、私の狙い通りです。
”よしよし……そろそろ、全速力で行くよ!”
指示した私と中型犬様は、一気にトップスピードに乗りました。
”……頼む! ついてきてくれ!”
追いかけてくる犬様二匹は、想定通りの動きで、私たちに迫ってきました。
〈続く〉
あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように
富山桃吉