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サービスエリアの空の下 41

「あの……」

近寄った私の声掛けに、男は鈍く反応し、ゆらりと目線を合わせてきた。

「ん?」
「ライター落としましたよ」
「え……」

羽織っている作業着の胸ポケットを徐にまさぐった男は、ライターがないことに気づいたらしい。
私は、ライターが落ちている場所を指さした。

「あそこです」
「ああ……」

男はライターを拾いに、背中を向けて歩を進めた。
やがて前屈し、ライターを拾い上げると、私に向かって少し頭を下げた。

「どうも。全然、気づかなかったわ」

くぐもった声にわずかな笑みをたたえ、男は自分のトラックへと去って行った。
すべての動作がゆっくりとしていた男を見送って、私はベンチに戻ろうとした。

その時――
小さな音を、私の耳が捉えた。

どこだ……?

私はじっと固まって、全神経を耳に集中させた。

どこだ……?
どこだ……?

ほんの少し待つと、再び同じ音が聞こえた。

……あそこだ!

今度は、音がした位置を逃さなかった。
すぐさま、その場所に視線を移す。

いた!

喫煙所の向こう側には、一匹の猫様の姿があった。
とはいっても、私が保護しようとしている白猫様や二匹のキジ白猫様たちではない。
私の瞳に映っているのは、茶色の被毛を纏っている、やや肥満体型の猫様であった。
鈴付きの首輪を付けているところを見ると、誰かが飼っていて、自由外出させている猫様なのだろう。

やっぱり、三匹の猫様以外も、このサービスエリア内に出入りしていたのか……。

その茶色猫様と私の目が合った。
途端、茶色猫様を警戒させないように私は視線を外し、なるべくゆったりとした動作で、スマフォの動画撮影モードを起動した。

しばらくすると、茶色猫様は、何食わぬ顔で草むらの中に姿を消して行った。
その方向は、捕獲器を設置している場所である。
私自身が草むらの中に足を踏み入れることを禁止されている以上、この場所に立ったまま、茶色猫様が入らないように捕獲器のフラップを閉めることは不可能である。
故に、下手すると、茶色猫様が捕獲器の中に入ってしまうかもしれない。

録画を停止し、設定したタイマーの残り時間を確かめると、まだ二十分弱残っていた。

それでも、仕方がない。
私は、茶色猫様が入って行った草むらの際まで駆け寄った。
そして、すかさず草むらに手を伸ばし、茶色猫様に警戒を煽る目的で葉を揺らす。

万が一、白猫様や二匹のキジ白猫様が付近にいた場合、この行動にメリットはないであろう。
それは充分に承知の上の行動だ。
とにかく茶色猫様を巻き込むわけにはいかない。
この瞬間、それが私の第一優先事項であった。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉