キジ白猫様、一匹確保。
私の腕に抱かれたキジ白猫様は、その見た目とは裏腹に軽かった。
パサつき、ツヤの無い被毛――
乾燥して、ざらついた肉球――
刻む鼓動と伝わる体温――
当然といえば当然だが、キジ白猫様は生きている。
その命の確かさを、ゴロゴロと鳴らす喉のリズムで奏でている。
私はただただ愛おしさを感じて、涙が込み上げてきた。
そんな私を慰めるように、キジ白猫様が顔をすりつけてくる。
”今まで、外でよくがんばったね”
キジ白猫様が鳴いて応える。
”これからは、エサの心配なく、美味しいものを食べて生きていけるよ”
”これからは、飲み水に困ることもない”
”これからは、冷え込む日でも、暖かい室内でぬくぬく昼寝できるよ”
”これからは、うだるような暑い日でも、涼しい室内で快適に過ごせるよ”
”これからは、雨に濡れることもない”
”これからは、車に怯えて暮らす必要もない”
キジ白猫様が鳴いて聞いてくる。
”みんなも?”
白猫様も、もう一匹のキジ白猫様も保護することも、私は約束した。
”大丈夫。みんな一緒だよ。そのために頑張るから”
キジ白猫様は鳴いて応える。
”じゃあ、行こうか”
私は語り掛け、キジ白猫様をしっかりと抱きかかえながら、自分の車に向かった。
トランクからハードタイプのキャリーケースを取り出し、それを閉める。
今度は後部座席に乗り込み、キジ白猫様にいう。
”少しだけ、この中で待っていてね”
キャリーケースの中にキジ白猫様を入れた私は後部座席を降り、再びトランクを開けてエサ用と水用のボウルを手にした。
それらに手作り食と水を入れ、キャリーケースの中に設置する。
すべての作業を終えた私は、車にロックをかけて、大きく息を吐いた。
……よっしゃ!
力強く拳を握って、無事に保護できたよろこびに浸った。
直後、安堵感からか、全身の力が弛緩していく。
しばしの間、その感覚に身を委ねた後、やがて私は我に返った。
スマフォを手に取り、男性に電話をかける。
5コール目で、男性に繋がった。
「お疲れ様です。今、電話していて大丈夫ですか?」
住宅の近くを歩いている最中なのだろうか、男性は声を潜めて話した。
「大丈夫です。けど、ちょっと、待ってくださいね……」
ガサガサと音が聞こえたところを見ると、受話口を手で押さえたようだ。
しばらく待つと、男性の声が戻ってきた。
「すみません。話し声が迷惑になりそうな場所にいましたもので」
「大丈夫ですか?」
「もう移動したので、平気です。それよりも、なにか動きがあったのですか?」
〈続く〉
あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように
富山桃吉