新着情報

サービスエリアの空の下 63

俯き加減の男性を、私は促した。

「捕獲器にべつの生き物が入っていなくて良かったですね。とりあえず、二匹のことが気になるので、車に戻りましょう」

無言で頷いた男性を連れ歩きながら、私はわずかながらの自嘲を覚えた。
サービスエリアの空の下 61』でも書いた通り、茶色猫様に対し、

”もしかしたら、もうすでに、キジ白猫様を捕獲器へと誘導してきてくれたのかもしれない……。

と淡い期待を抱いていたからである。

そんなに都合よく、ことは運ばないか……。

恥じ入るように、私も軽く俯いた。
その時である。
草むら際から小股でニ十歩くらい歩いた位置で、茶色猫様が付けていた鈴音を私の耳は捉えた。

「……ん?」

立ち止まり、下を向いていた顔を条件反射のように上げると、男性と目が合った。
どうやら、男性にも鈴音が聞こえたらしい。

「今の音……あの茶色猫の、ですよね?」
「そう、だと思います」
「どこから聞こえてきたのでしょう……」

男性が首を回す。
私も同じようにして、茶色猫様の姿を探した。
しかしながら、四つの目をもってしても、周囲に茶色猫様の姿を見つけられない。
そのうちに、男性が不思議そうにいう。

「おかしいですね……確かに聞こえたと思うのですが」
「……ですね」

私と男性が今立ち止まっている位置は、歩道部分のアスファルト上だ。
よって、視界を遮るものはない。

そうなると、だ。
茶色猫様が姿を隠せる場所があるとすれば、それはやはり、草むらの中しかない。
それを私が口にするまでもなく、男性もそう考えたのだろう。
気づけば、草むらを振り返り、呟いた。

「茶色猫、どこかに上手く隠れていたのでしょうかね……」

それは草むらの中に植わっている樹の上だったのかもしれないし、茂る草陰だったのかもしれない。
いずれにせよ、男性と私からは見えない位置だったのだから仕方がないだろう。
そもそも、茶色猫様は保護対象ではないので、あまり深刻に考える必要はない。

私はそう意見を述べたが、男性はしかし、まだどこか釈然としない様子であった。
不思議に思い、私は尋ねた。

「一体全体、なにが、そんなに気になるのですか?」
「いやあ……茶色猫の鈴音について、ちょっと……」
「鈴音、ですか?」
「ええ」
「私にもさっき、確かに聞こえましたよ。ですから、空耳ではないかと思いますが……。鈴音を聞いたのは、さっきのが初めてではありませんしね。あの子と出くわしてから、もう何度も聞いています」
「はあ……」

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉