”聞かせた”のではなく、”聞かせてくれた”という受動的態度で表現したのには、私なりの考えがあった。
かなしいかな、現実問題として、人の世では無条件に信じて騙されてしまうことも時としてあるので、疑ってかかる姿勢も大事だ。
それにしたって、自分が知り得る知識の限界でシャットアウトせず、受け入れてみる余白をもって対峙する寛容性が、新しい知識の習得に成り得る部分もあるはずである。
そうはいっても、今、男性と私が直面している、誰かが聞かせてくれた鈴音の理由を知ることで、新しい知識の習得にはならないかもしれない。
だが、私たちの最大目的である、キジ白猫様の保護に役立つ可能性もある。
たとえば、鈴音を”聞かせてくれた”のが茶色猫様だとすると、だ。
捕獲器の中に、なにがしかの生き物が入ってしまっているのでそれを解放してあげろ、という忠告の一種なのかもしれない。
場合によっては、茶色猫様自身が捕獲器の中に入ってしまったので出してくれ、というヘルプの意味だと捉えることもできる。
実際の方法論はべつとして、”シロ”くんが鈴音を”聞かせてくれた”のだとしても、上記と同じような事情によるメッセージなのかもしれない。
「いずれにしても、です。良きにしろ悪きにしろ、なにかしらの理由で、誰かが私たちに鈴音を”聞かせてくれた”前提で考えれば、なかったことにするのはいかがなものかと思います」
私の考えに、男性も同意した。
「そうですよね。鈴音を”聞かせてくれた”理由を確かめてみる価値はありますよね。草むらの中を、もう一回確認しに行きましょうか?」
「お願いしたいと思います。さしあたって、私は一度、車の中の白猫様とキジ白猫様の様子を見てきます。そのついでに、手作り食の追加分を持ってここに戻ってきますので、それまでは、この位置で、辺りの様子を探っていてもらえますか? もう一度、鈴音を”聞かせてくれる”かも分からないので」
「了解しました。聞き逃さないように集中しておきます」
男性の返事を聞くなり、私は自分の車に向かって急いだ。
車内の白猫様とキジ白猫様の様子に異変はなかった。
私の心配をよそに、二匹ともスヤスヤと眠っている。
二匹の様子を確認した後、私は車のトランクを開けて、追加分の手作り食を手に取った。
残りはわずかだ。
手作り食が尽きてしまう前に、どうにかこうにか、残りのキジ白猫様を保護したい!
私は決意をあらたに車のトランクを閉め、男性が待つ場所へ戻った。
〈続く〉
あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように
富山桃吉