捕獲器を設置している場所に向かっている途中、鈴音は聞こえてこなかった。
キジ白猫様や茶色猫様はもとより、ほかの野生動物の姿も見かけない。
この現実が、捕獲器の中になんらかの生き物(キジ白猫様か茶色猫様などを含む)が入っている、という男性の期待を大いに膨らませているようだ。
捕獲器を目指すその足取りに一切の迷いは感じられないし、足運びが力強い。
ほどなくして、男性が歩く速度を緩めながらいう。
「捕獲器は、あそこの木の裏に設置してあります!」
私は頷き、指示を出す。
「では、一旦、立ち止まりましょう」
私たち二人はほぼ同時に立ち止まり、呼吸を整える。
この段に至っても、周囲に生き物の姿は確認できなかった。
鈴音も聞こえてこない。
先に呼吸を整え終わった私は、男性の希望を聞いた。
「ご自分で確認しにいきますか?」
肩で息をしながら迷ったあげく、男性はいった。
「……いや、止めておきます。お宅さんにお願いしたいです。この重要なタイミングでまたミスを犯してしまったら、どうにもこうにもやりきれませんので……」
「承知致しました。では、私から連絡をするまで、ここで静かにお待ちください」
息を呑み込んだ男性を残し、極力足音を立てないようにしながら、私は一歩ずつ捕獲器に寄って行く。
やがて、捕獲器の片鱗が見えてきた。
捕獲器の中にいるのは、キジ白猫様なのか……。
茶色猫様なのか……。
はたまた、ほかの生き物なのか……。
否が応でも早まってしまう鼓動を落ち着かせるべく、私はここで一度、鼻で深く息を吐いた。
……よっしゃ!
気合と同時にさらなる前進を試みると、捕獲器の全貌が見えてきた。
その中に入っているものの正体を見極めるべく、私の目は自然と見開かれた。
だが、しかし――
捕獲器のフラップは閉まっているものの、その中には、なにも入っていなかった。
設置した手作り食にも変化がない。
期待していた反動で、さすがに肩を落としそうになった。
それでも、がっくりしたままではいられない。
なんらかの生き物が捕獲器の中に入ったのではないのだとしたら、なにかの衝撃が加わった拍子にフラップが閉まったと考えなければならないからである。
となると、だ。
まだ、付近のどこかに潜んでいる可能性がある。
そうだとしたら、捕獲器の現状についての男性への連絡は、一先ず後回しだ。
どこかで、足音がしないか……。
どこかで、鳴き声がしないか……。
どこかに、気配を感じないか……。
私は瞬時に五感を研ぎ澄まし、全方位に注意を配った。
〈続く〉
あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように
富山桃吉