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ラブラドールレトリーバーの飼い主様 後編

さて。
前編で書いた、帰宅途中に見かけたラブラドールレトリーバー様に話を戻す。
実際に私が直面したラブラドールレトリーバー様と飼い主様の状況は、まさにネガティブな結果をもたらしていた。

はしゃぐラブラドールレトリーバー様に向かって、『言う事聞け、バカ犬が!』と罵声を浴びせながら、力任せにリードを引っ張る飼い主様……。
途中、ラブラドールレトリーバー様が排泄をしようとする仕草を見せても、『早く来い、バカ犬が!』と悪態をつき、再び力任せにリードを引っ張る飼い主様……。

後方を歩きながらその光景を眺めていた私の胸は、乱暴に締めつけられた。

少しすると、ラブラドールレトリーバー様と飼い主様の前方から、自転車に乗った若者が来た。
無灯火で猛スピードを出している若者はご機嫌らしく、無意味に蛇行運転をしながら迫ってくる。

いち早くそれに気づいたラブラドールレトリーバー様が、リードを強く引っ張り、若者に向かって行く動きを見せて吠えた。
その時、スマフォ操作に夢中になっていた飼い主様が驚いて、よろけた転んだ。
自転車に乗っていた若者は、ハンドル操作を誤って、壁に激突した。

私はすぐに駆け寄り、咄嗟にラブラドールレトリーバー様に繋がっているリードに手を伸ばした。
ラブラドールレトリーバー様逸走の心配を先ず潰したついで。
飼い主様と若者に向かって声をかけた。

「どこかケガはありませんか?」

けれど、飼い主様も若者も無言のまま、しばらく互いに睨み合っている。
険悪なムードを断ち切るべく、私はもう一度、双方に尋ねた。

「お二人とも、どこか痛めた箇所はありませんか?」

すると、私の方をチラリと見やってから、若者に向かって飼い主様が怒声を上げた。

「危ねえだろ、バカ野郎!」
「てめえこそ、バカ犬をしっかり管理しろよ!」
「誰がバカ犬だ!」

ついさっき、飼い主様自身も、ラブラドールレトリーバー様に向かって『バカ犬が!』と罵声を浴びせていたが……。
などと言ってもヒートアップさせるだけなのは明白だったので、私は揉める二人の仲裁に入った。
その時に気づいたのだが、若者の両耳から垂れ下がったイヤフォンからは、大音量であろう激しい曲が漏れていた。

お互いの不注意が招いた、起こるべくして起こった事故というわけだ。
ラブラドールレトリーバー様にはケガはなく、私にまとわりつきながら尻尾を振っている。

事故の当事者である二人は、その後も互いを罵り合いながら、別々に去って行った。

なんだかなあ……。
まあ……。
飼い主様も若者も、幸いにして、大したケガもなさそうだからいっか……。

その場に一人残された私は、大きく深呼吸をした。
すでに先を行っていたラブラドールレトリーバー様はふいに立ち止まって振り返り、そんな私をじっと見つめてきた。
飼い主様がいらつく。

「早く来い、バカ犬が!」

飼い主様にリードを引っ張られて、ラブラドールレトリーバー様は再び歩き出した。

私は、ラブラドールレトリーバー様に言った。

≪大丈夫、キミはバカ犬なんかじゃないよ≫

なぜって??
ラブラドールレトリーバー様はきっと、飼い主様と若者に危険を知らせる為にリードを引っ張って吠えたのだろうと、私には思えたからだ。

私の視線の先で、ラブラドールレトリーバー様はお尻をフリフリ、踊るようなテンポで跳ねていた。

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉