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昨今のペット飼育事情について 〜犬様のお散歩にまつわる事〜36

「今の様子は?」
「どうすればいいのか、ひどく動揺してる!」

岡村の返答は、私が知りたかったこととズレていた。
おそらく、飼い主様の”今の様子”を私に伝えたのだろう。
もちろんそれも大事なのだが、ハチに刺されたのはNちゃんだ。
私は、尋ね直した。

「Nちゃんは? どんな状態?」
「たぶん口周りを刺されたみたいで、その辺りをしきりに気にしてる様子だって」
「腫れは? 針は刺さったまま残ってる?」
「ちょっと待って」

岡村が飼い主様に聞いている間、お世話中の犬様たちが私を見上げた。

≪どうしたの?≫

不安そうな彼らに、私は笑顔を浮かべながら、やわらかい声で答えた。

「大丈夫。大丈夫。みんな、ちょっと待っててね」

特段のコマンドを示したわけではないのに、犬様たちは一斉にお座りをした。
見事に空気の読める彼らだなあと感心しているうち、岡村が私に伝えた。

「Nちゃんの顔、腫れてきてるって。針は確認できないって」
「わかった。針をさがそうと、無理に撫でまわさないように」

私の言葉に付け加えて、岡村が飼い主様に再度確認したところ、タイミングが悪いことに、Nちゃんが通っているかかりつけの動物病院は数日間休診だという。
確か、飼い主様宅の近所には、ほかに動物病院がない。
私は素早く決断した。

「河原ってことは水道が近くにないと思うから、Nちゃんが歩いてくれそうなら、水道がある近くの公園か自宅に連れ帰って、ハチに刺された箇所を洗い流してと伝えて。その場に残っていると、Nちゃんがまたハチに襲われるかもしれないし、飼い主様も刺される可能性があるかもしれないから、とりあえず早くその場から避難した方がいい」

岡村は頷きながら、飼い主様に告げた。
続けて、飼い主様との電話をいったん切ったあと、時計に目をやった。

「ぎりぎり間に合いそうだから、Nちゃんのところに行ってくる。そのまま、M動物病院にも。みんなのこと、お願いします」

お座りをしていた犬様たちが、岡村の方に振り返った。

「わかった。もし、Nちゃんにハチの針が残ってても、抜けそうにないなら無理しないように。痛みで嫌がって咬まれる可能性があるし、Nちゃんを刺したハチがミツバチだったとしたら慎重にやらないと」
「うん。昔飼っていた犬との散歩中、ミツバチに刺されたことがあって、その針を抜いたらテニスボールくらい唇が腫れちゃって大変だったから気をつける。M動物病院には、こっちで連絡入れとくから」

真剣な表情を浮かべている岡村は、Nちゃんと飼い主様の元へ急ぐべく、駆け足で店を後にした。

……ハチに刺されたのは、飼い犬じゃなくて自分かーい!
見送った私は、テニスボール大に唇が腫れあがった岡村の顔を想像して、失礼ながらおもわず吹きだしてしまった。

すると、犬様たちのうち、一番やんちゃな子がお腹をみせて転がった。
私はそのお腹を撫でながら、正気に返り、Nちゃんの無事を祈った。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉