新着情報

風に揺れるヒマワリの咲く河原で 1

「往診で八回の注射を打つことになっていて、とりあえず二回終わったところなんです」

言いながら、飼い主O様は不安げな表情を浮かべた。
くるり、きょとん。
うつ伏せのまま上半身だけを起こしたひなちゃんはすかさず、上目遣いでO様を見上げる。
ついで、入念な問答をヒアリングシートに書き込む代表岡村が真剣な顔つきで相槌を打つと、ひなちゃんはすかさず、くるり、きょとん。
すかさず、もう一度くるりと振り返り、ボクを見てきょとん。
まるで大きなぬいぐるみのようで愛くるしい。

≪ひなちゃん、その上目遣いの『くるり、きょとん』反則。かわいすぎ≫

ボクの心の声を受け取ったひなちゃんは尻尾をふさりと動かした。

≪そう? そんなにかわいい?≫
「うん、やばいね」

破顔で思わず声に出したボクの一言に、O様の不安が絡む。

「やばいって……ひなちゃんの容体、やっぱり悪いのでしょうか?」
「あ、いえ、そういう意味じゃなくてその……ひなちゃんが愛くるしくてつい……すみません」

間髪入れず、ボクにだけひきつり笑顔を向けながら岡村が続ける。

「O様、私達は獣医師ではございませんのでひなちゃんの診断や治療はできません。なので彼のさっきの言葉には深い意味はございませんのでご安心下さい。ね!?」
「え、あ、はい。紛らわしい言い方して申し訳ありません。ははは……」
「それならよかったです。なにせ突然の事なので、私一人じゃどうしたらいいのやら……」

バーニーズマウンテンドッグの女の子であるひなちゃんは約30?の大型犬。
わずかな異変が起きたのは12歳を迎えた今年の5月19日、散歩から帰宅した際の事だという。
いつものようにスムーズに段差を乗り越えられないひなちゃんの背中を撫でたO様は、腰の辺りにコブのようなものが出来ている事に気づいた。
O様は直ぐにかかりつけの獣医師に電話をしてひなちゃんの様子を伝えた。
だが、その後のひなちゃんは普通に歩いてる事もあり、獣医師はO様にこう告げた。

「12歳の大型犬だから疲れやすくなっているだけでしょう。散歩の時間を減らして、帰ってきたらよくマッサージをしてあげてください」

さしあたって緊急性を要する事もないから様子を見るように指示をされた0様は一抹の不安を抱えたものの、ひなちゃんをよく知っているかかりつけの獣医師の指示を素直に仰いだ。
するとその甲斐があってか、日に日にひなちゃんのコブは小さくなっていった。

ところが。

一週間後の5月26日の午前中。
散歩にでかけようと首輪を手にひなちゃんに寄ったO様の不安が再び膨張した。
いつもなら嬉しそうに立ち上がるひなちゃんが、いつまでたっても立ち上がらない。
どこか不満げにうつ伏せをしたままのひなちゃんの様子に居ても立っても居られず、O様は再び獣医師に連絡した。

「先生、ひなちゃんを診てもらえませんか」
「いいですよ。連れて来て下さい」
「でも……ひなちゃんは立ち上がれないですし、とてもじゃないけど、私一人じゃ抱えて連れて行けません。お願いです。往診してもらえませんか」
「ご存じでしょうけど、うちは往診はやってません。心配ならば、往診をしてる別の動物病院にお願いしてみてはどうです?」
「そうですか……わかりました」

落胆したO様だったが、めげずに往診をしてもらえる動物病院を探した。
ようやく引き受けてくれる動物病院が見つかり、O様のお宅に獣医師が往診にやってきたのは、空が紅の夕陽に染まる頃だった。
DSC01258

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉