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風に揺れるヒマワリの咲く河原で 13

「お母さん。ひなちゃんはおそらく、バーニーズマウンテンドッグに多く認められる病気です」
「それはその……」
「変形性脊髄症と言いましてねえ……」

F先生の口から出た耳慣れない病名に息を呑むO様。
その背中に手を当て、岡村は素早くメモを取り出した。
O様の動揺を敏感に察知したひなちゃんの身体をボクは撫で続ける。

「この病気はねえ、近年、発症原因に関与する遺伝子が発見されたんだけど、まだまだ有効な治療法は見つかっていないんです」
「それはその……ひなちゃんはもう治らないって事ですか?」
「お母さん、残念ながらそういう事になります」

ボク達も介護のお世話に伺う機会が多いので、変形性脊髄症がどんな病気かは耳に新しくない。
バーニーズマウンテンドッグの他に、ジャーマンシェパードやボクサー、ウェルシュコーギー等でも見られる病気だ。

「……その病気のせいでひなちゃんは歩けなくなったのですか?」
「はい。僕が診るに、ひなちゃんの症状はステージ2。つまり前肢は正常だけれども、両後肢の麻痺が進行していて四肢での歩行が困難との診断です」
「……じゃあ、ひなちゃんは相当な痛みがあるのでしょうか?」

絞りだすよな声のO様を案じたひなちゃんがボクを見上げる。

≪ねえ、お母さんに言ってあげて! 痛くないよって!≫
≪大丈夫だよ、ひなちゃん。F先生に任せて≫

「この病気はねえ、お母さん。痛みを伴わずにゆっくりと麻痺が進行する脊髄の病気なんです。ですが先程触診させてもらった結果、ひなちゃんの後肢はまだ、わずかですが感覚が残っています」

それは本当の事だった。
ひなちゃんのリハビリを行っている際もボク達は確認している。

「だから注射は痛かったでしょうねえ。頑張り屋さんだねえ、ひなちゃんは」
「そうですよね……なのになんで……」

O様のぼやきはもっともだった。
注射を打たれる際に痛がるひなちゃんを目の当たりにしてきたのだ。

「症状は10歳頃から現れて、大方は後肢から麻痺が始まります。お母さんがひなちゃんの様子に気づかれた時と同様、散歩中に後肢を擦って歩いたり、段差を踏み外したりして初めて気づく飼い主さんが多いんですねえ」
「先生。この先……ひなちゃんはどうなってしまうのですか?」
「ウオンッ!」

O様を想う気持ちが鳴き声になって診察室に響き渡る。

≪ダメ! 心配するから言っちゃダメ! ねえ! F先生に、言っちゃダメって言って!≫
≪ひなちゃん……≫

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉