新着情報

風に揺れるヒマワリの咲く河原で 15

いつもひなちゃんを散歩に連れて行く河原は、七月に入ると日毎に夏の陽光が強くなっていった。
日陰もないので、ひなちゃんの身体の事を考えれば河原での長時間滞在は禁物だ。
それを考慮して、これまではO様の仕事中を中心に伺っていたひなちゃんの介護スケジュールはそのままに、ひなちゃんの散歩時間は早朝か夕刻に変更する事にした。
同時に、日射病予防としてひなちゃんのサイズに合わせた日射病対策グッズも製作した。
生地はもちろん、O様の娘様が幼少時に着ていたパジャマや思い出の品々を使用した。
その一つであるクールバンダナを巻いたひなちゃんを見るO様の目が柔らかい。

「ひなちゃん、似合ってるわよ」
「ウオンッ!」

O様とひなちゃんのこういった何気ないおしゃべりは実に微笑ましい。
それを遠巻きに聞き耳立てているササちゃんの姿もまた然り。
今まで当たり前だったO様・ひなちゃん・ササちゃん達の日常風景に、今はボクや岡村も映っている。
ひなちゃんの介護という機会で結ばれたこのご縁がボクに優しく囁きかける。

??俯かずに続けなさい
その目に映る誰かの喜びに繋がる仕事を
惜しまずに捧げなさい
その手を待つ誰かの涙を拭える仕事を??

そう言っているように聞こえて声がする方を見上げると、ご縁が灯す道を歩き続けてきた途中で出逢った動物達の姿が在った。
みんな、飼い主さん想いだった。
みんな、愛くるしかった。
みんな、素晴らしかった。
みんな、生きる為に生きていた。
みんな、それぞれの飼い主さんを自分で選んで生まれ、共に暮らしていた。
みんな、それぞれの飼い主さんに言っていた。
大好きだよって。

ボクはみんなから色々な事を教わってきた。
例えば絆の強さの尊さを。
例えば幸福の意味の見つけ方を。
例えば絡まったモノの紐解き方を。
例えば生きる事を生きる為の眩しさを。
数え上げたらきりがない。
なのに、ややもするとせっかく教わった事から目をそらしてしまいそうになる瞬間が未だにある未熟なボク。
けれども、今この瞬間のO様・ひなちゃん・ササちゃんには曇りのない言葉を贈れる。
O様がO様だから、ひなちゃんもササちゃんも嬉しいって。
ひなちゃんやササちゃんがひなちゃんとササちゃんだから、O様は嬉しいって。
だから、その愛しくてかけがえのないO様達の時間の為にボクや岡村が出来る事は可能な限りしてあげたかった。

まだ残された時間は在る??

だったら!
だったら……。
だったら!
って一日中考えながら流れていく毎日だった。

そんな日々を送っていた7月8日。
ボクはいよいよ無力感に苛まれる現実を突きつけられた。

『36』

F先生から告げられた数字がボクの心身を静かに深く刻んだ。
どんなときもF先生の声音は変わらず優しい。
そのせいかな……万事を尽くしても変えられない現実を刻まれても、ボクはイタミを自覚するのに時間がかかった。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉