新着情報

風に揺れるヒマワリの咲く河原で 16

『36』

F先生が仰ったその数字は時間の事だった。
ひなちゃんの病気は避けようもなく進行してしまっている。
もはや自力での排泄が難しくなってしまった。
最低でも36時間に一度は排尿をしなければ、毒素が身体中に回って命の危険が迫る。
ボク達は日中深夜問わず、36時間以内に一度はひなちゃんを見舞いに伺い、圧迫排尿のお世話を行った。

ひなちゃんの食欲低下も気がかりだった。
目ヤニも多くなり、歯茎からの軽い出血も見られるようになった。
F先生が仰るには免疫力の低下が回復を遅らせているのだという。
ボク達は少しでもひなちゃんの栄養になるものを、ひなちゃんが食べれそうな流動食を工夫して作り、ゆっくりとゆっくりと食事の介助を行った。

お世話に伺う度に、ひなちゃんの体温・脈拍・呼吸数・体重・飲水量・食事量も欠かさずチェックしているのだが、そのグラフの変位を見つめるO様の表情には日毎、隠せない疲弊が滲んでいた。
心配や不安を敏感に感じているせいだろうか、ササちゃんも頻繁に姿を見せなくなった。
O様のご報告によると、ひなちゃんは静かに眠っている事が多くなったという。
そんな状態でも、くるり、きょとん。
しんどいだろうに、相変わらずひなちゃんはその愛くるしいスタイルでボクを迎えてくれる。

≪ねえ? 河原のヒマワリ咲いた?≫

ひなちゃんの問いかけにボクは正直に答えるしかなかった。

≪残念だけど、まだ咲いてないよ≫
≪やっぱりね。そっかあ……≫

ひなちゃんはボクの膝に頭を預けて、静かな呼吸だけを繰り返す。
7月も半ばに近づくと、そんな時間が多くなった。

良くない事が続く。
弱っていくひなちゃんと呼応するようにO様は心労がたたって、とうとう体調を崩されてしまった。
ひなちゃんのお世話に伺うと同時に、高熱で苦しむO様用の療養スープも作った。

「ゴホッ、ゴホッ。すみません。飼い主の私が頑張らなくてはいけない時に……」
「なにを仰います。O様は充分に頑張られてますよ。ひなちゃんの事はボク達に任せて、今は一刻も早く体調が良くなるようにお休みになって下さい」
「スープ、ご馳走様でした。久しぶりに人が作ってくれたものを頂きました」
「ひなちゃんとお揃いの具材です」
「親子共々、お世話になります」
「いえいえ。元気になったら、ひなちゃんを連れて親子散歩しましょうね」

ボクが言う親子共々とはO様の娘様も含めての事だった。
仕事で帰省がかなわないO様の娘様のお盆休みはもう少し先だ。
その頃には河原のヒマワリも咲いている事だろう。

ひなちゃんのお世話を一通り終えてしばらくした後、ボク達はそおっと片付けを始めた。
この後に迷子猫の捜索に向かう予定になっていて、その帰りにまたO様のお宅へ様子を伺うつもりでいた。
帰り際、眠っているO様とひなちゃんに代わってササちゃんが玄関に姿を現した。

≪じゃあね、また夜に来るから。ひなちゃんやO様が目を覚ましたらよろしく伝えておいて≫

珍しく返答をしないササちゃんはじっとボク達を見上げていた。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉