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風に揺れるヒマワリの咲く河原で 19

捜索現場に到着したのは陽が傾き始めた頃だった。
駐車場に車を停めて時計を見ると、約束の時間まではまだ10分早かった。
準備を整えて車を降りたボクはスニーカーの靴紐がほどけていたのに気づいた。
しゃがんで靴紐を結んでいると、前に停まっていた車の下に猫がいるのを見つけた。
暗がりで後ろ姿だったのではっきりはしないが、迷子の猫とは明らかに毛色が違う。
ササちゃんと同じ毛色だ。

「岡村、猫がいるよ。地図に記しておこう」
「どこどこ?」
「前の車の下」
「え? いないよ?」
「いや、いるって……あれ……」

岡村の言う通り、在ったはずの猫の姿はなかった。

「おかしいなあ……」
「どんな猫だったの?」
「ササちゃんと同じ毛色の猫」
「ひょっとしてササちゃんだったりして」

岡村は冗談で言ったのが分かっていたが、ボクは岡村を促した。

「O様、そろそろ目が覚めたかもしれないから、捜索開始前に一回電話入れておけば」
「そうだね。少しは具合が良くなっているといいな」

岡村が車から電話を取り出そうとした時にちょうど着信音が鳴った。

「あ、O様からだ。起きてたっぽい。はい、岡村です」

明るく電話に出た岡村の顔が一瞬にして陰った。
と同時に声を詰まらせている。

悟った。

ボクの目に映る景色。
聞こえる音。
漂う香り。
包み込む空気。
そのすべてが時を止めた。

高熱にうなされていたO様が目を覚ますと、ひなちゃんは静かに息を引き取っていたという。
未だ温もりを残しながら。
その温もりをちゃんとO様にも伝わるように。
大好きなO様の悲しんだ顔を嫌ったひなちゃんらしい最後だと思った。
やっぱり、さっきの猫はササちゃんだったのかな……。
涙するO様の傍に寄り添うひなちゃんに代わって、ササちゃんがボク達に報告しに来てくれたのかもしれない。
ひなちゃんが安らかに眠った事を。

ぐしゃぐしゃな涙顔の岡村に代わって、ボクはF先生にひなちゃんの報告電話を入れた。

「……そうですか。そうですか……」
「お世話になりました。F先生、本当にありがとうございました」
「皆さん、よく頑張りましたねえ。うん。よく頑張りましたよ」

F先生の声音は相変わらず優しかった。
F先生のその言葉をきっかけに、ボクの目に映る景色、聞こえる音、漂う香り、包み込む空気、そのすべてが再び時を刻み始めた。
すると、我慢していた涙が自然と溢れてしまった。
それでも強引に拭って時計を見た。
約束の時間だ。

「行こう岡村。今はひなちゃんの厚意を無駄にしない為にも、迷子の猫を捜してあげなくちゃ」

岡村も強引に涙を拭った。
ボク達は歩き出した。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉