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風に揺れるヒマワリの咲く河原で 7

一先ずのヒアリングを終えてO様のお宅を後にしたボク達は、車中でひなちゃんの介護用ハーネスについて議論を交わした。
販売されているものを片っ端から調べ上げ、ひなちゃんの症状と実寸に適合する材料を揃えなければならない。
あれこれと案を練っているボクの隣で岡村が独り言のようにもらした。

「……ああーあ。ひなちゃんとO様を元気だった『時』に戻してあげたいな」
「元気だった『時』かあ……」

つられてもらしたボクはぼんやりと歩道に目をやった。
時折、散歩中の犬と飼い主さんを見かける。
歩きながらも飼い主さんを嬉しそうに見上げる犬。
けれど、それよりもスマホに夢中な飼い主さん。
オシッコをしたそうに立ち止まる犬。
なのに、気づかずリードを強く引っ張りながら歩き続ける飼い主さん。
それぞれが忙しい毎日で心がカチコチなのかもしれない。
たかだか散歩の一場面にすぎないといわれればそうかもしれない。

それでも。
その一歩一歩がどれだけかけがえのない一歩一歩か。
なにも散歩に限った話ではない。
ペットと暮らす人は誰もが思ったことがあるはずなのだ。
愛しい人と出逢えた人もまた想うはずなのだ。
温もりに包まれて眠る『時』。
のんびりと目覚めた『時』。
夢中ではしゃいでいる『時』。
大きくあくびをしている『時』。
ただじっとしている『時』。
おいしそうに食べている『時』。
触れ合って繋がっている『時』。
心がやわらかければ、どの『時』にもよろこびと感謝を覚える。
なくしたくない『時』だと切に願う。
なくした後に気づくくらいならば、せっかく与えられた『時』を大切に過ごして生きた方がいい。
自戒を込めたボクは静かにひなちゃんとO様の姿を心に描いた。

「とにかく、自力で立ち上がれなくなったひなちゃんの後ろ足を支えるのは必須だよね。リハビリや床ずれ防止の為にも。あとはひなちゃんの寝返りを打ちやすくさせてあげなくちゃ。くれぐれも、これ以上O様の腰痛が悪化しないように」

岡村の言葉に同意しながらイメージを紙に写し、必要と思われる材料をピックアップした。

「あのさ、これでどうかな?」
「いいんじゃない。早速買い出しに行かなくちゃ!」

≪まあ悪くないわね≫

もしかして、俄然やる気になっている岡村にもきこえたのかな。
ササちゃんがそう言ってくれたのが。
そんなことを考えながら小さな笑みを浮かべたボクはもう一度歩道に目をやった。
信号待ちで足を止めた飼い主さんに倣い大人しくお座りをして見上げる犬。
にっこりと微笑みながらアイコンタクトをし、ほめて撫でる飼い主さん。

≪まあ悪くないわね≫
≪ひなちゃん、言い方がササちゃんにそっくりだ≫
≪だって姉妹だもん≫
≪だね≫

そうして6月3日。
ボク達はひなちゃん専用に作製した介護用ハーネスを手に、意気揚々とO様のご自宅に伺った。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉