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風に揺れるヒマワリの咲く河原で 8

「ひなちゃんにぴったり!」

岡村の自画自賛は大げさではなく、ボク達が作製した介護用ハーネスはひなちゃんにフィットしている。
サイズが合わない介護用ハーネスだと胸を圧迫したり血流を阻害してしまったりするが、しっかりと採寸して作製したので大丈夫そうだ。
注意深く呼吸を観察しても苦しそうな呼吸はしていないし、不必要に生地が身体に食い込んでもいない。

「ではO様、ひなちゃんを立ち上がらせてみますね」
「……お願いします」

祈るように発したO様の声にはどことなく緊張感が漂っていた。
前後左右の四か所の持ち手を岡村とボクとで手分けして握る。

「ひなちゃん、立ってみようね」
「せーの!」

まだ力が入る前脚で踏ん張るひなちゃんの様子を見ながら慎重に慎重に腰を上げていく。
間もなくしてO様の歓喜の声が響いた。

「ひ、ひなちゃん!」

立ち上がったひなちゃんを見つめている0様の目が輝いている。
同じく目を輝かせているひなちゃんが返事をした。

「ウオンッ!」

いつも当たり前のように見ていた目線の高さの再現に、ひなちゃんは喜んでくれているのだろう。
後ろ脚を支えているボクの身体に尻尾がブンブン当たる。

「うれしいね、ひなちゃん! よかったね、ひなちゃん!」

話しかけながらひなちゃんを撫でるO様の肩が震えている。

「よし、ひなちゃん。一回休憩しようね」

岡村に目で合図を送り、ひなちゃんをゆっくりと床に寝かせた。

「二人で支える時はこのようにして使用します」
「はい。ありがとうございます」
「つぎは一人で支える場合を説明しますね」

ボクは持ち手をショルダー使用に付け変えた。

「ひなちゃん、もう一度立ってみようね。せーの!」
「ウオンッ!」

ひなちゃんがゆっくりと立ち上がる。

「こうすれば、腰への負担が軽減されますので」
「なるほど……」
「つぎは寝返りを打たせてあげましょう」
「寝返り補助にも使えるんですか、それ」
「はい。見ててください」

ひなちゃんを寝かせた後に、寝返り時の使用方法をO様にお教えした。

「これなら、今までより楽に寝返りを打たせてあげられます」

弾むO様の言葉に微笑んで返すボク。
その横から岡村が手を差し出す。

「これ、床ずれ防止クッションです」
「あら、かわいい!」

今は仕事で遠方に暮らすO様の娘様が幼少時に着ていたパジャマの生地。
それをお借りし、カバーに使用して作製した床ずれ防止クッションをO様が優しく抱える。

「これで娘の想いも伝わる気がします」
「そうですね。伝わりますよ絶対に。みんなで頑張りましょうね!」
「ウオンッ!」

≪悪くないわね、あんた達≫

O様と岡村とひなちゃん、そしていつの間にか覗いていたササちゃんも皆ポジティブな表情を浮かべている。
たぶん……いや。
ボクも同じ顔をしていた。

そんな風にして立ち上がりのリハビリとマッサージをひなちゃんに施した後、ボク達はいよいよ散歩に出かける準備に取りかかった。
持参した担架に介護用ハーネスを装着してひなちゃんを乗せる。
いよいよ出発準備を整えた岡村が首輪とリードを手にしているO様にアドバイスをした。

「O様、今日は日差しが強いので日除けの帽子があった方がいいかもしれません」
「え……ご一緒しても?」
「当然です。ひなちゃんとO様が一緒に散歩をしてほしくて私達は伺っているんですから」
「ありがとうございます! 帽子取ってきます」

≪ササちゃんはお留守番だよ≫
≪言うと思った!≫

プンスカしながらササちゃんが二階へ上がっていくのと入れ替わりにO様が一階に降りてきた。

「お待たせしました」

岡村が笑顔で促す。

「では、行きましょう!」
「ウオンッ!」

O様とひなちゃんのいつもの散歩道である河原には強い日差しを凌げるものは何もないので、とにかく眩しかった。
けれど、ボクにはO様とひなちゃんの姿がそれ以上に眩しく感じられた。

なぜって――

ひなちゃんが乗る担架の傍らを歩くO様が道中、ひなちゃんの名を幾度となく呼んだから。
喜びとか愛とか絆とか、そんなものが入り混じった輝かしい声音で。
それに答えてO様を見上げるひなちゃんの瞳にも確かに浮かんでいたから。
喜びとか愛とか絆とか、そんなものが入り混じった輝かしいものが。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉