新着情報

風に揺れるヒマワリの咲く河原で 9

久しぶりの散歩に出れた心理的な効果があったのかもしれない。
ボク達が週に2〜3回のお世話に伺う内に、ひなちゃんの瞳は俄然生き生きとしてきた。
O様の腰痛も幸いにして悪化せずにすんだので、それもひなちゃんは嬉しかったに違いない。
二人のお役に立ててることで、ボク達のモチベーションもすこぶる高かった。
なにせ、O様のお宅の駐車場に車を停めた段階でひなちゃんは必ずボク達に気づいてくれて、元気な鳴き声でお迎えしてくれるから余計に嬉しい。

「こんにちはO様、ひなちゃん、ササちゃん」

部屋にお邪魔すると、ひなちゃんは今日も『くるり、きょとん』と上半身をくねらせてボク達を歓迎してくれた。

「ほら見てください。やっぱりひなちゃんの瞳が違うでしょう!?」

O様に言われた岡村がわざとらしく腕組みして頷く。

「そうですよね。この前私が一人で伺った時とはあきらかに瞳のキラキラ度合いが違います」

前回のお世話日には迷子ペットの捜索に出張していたので、ボクが不在だったのは事実だ。
岡村の話によると、いつものように河原に行ってもどこか元気がないひなちゃんだったらしい。
ササちゃんも一瞬だけ姿を見せただけで、そそくさと二階に上がったという。
それで、O様と話したそうだ。
ボクがいなかったせいかもれないと。

「考えすぎですよ」

などと言いながらまんざらでもなかったボクはひなちゃんの身体を拭いてブラッシングをしてあげた。
いつもよりも丁寧に。
ひなちゃんも気持ちよさそうにしてくれた。
いつもよりも大胆に。
おかげで、散歩中のボクの足取りはいつも以上に弾んでいた。
その後、河原での散歩を終えてお宅に戻ったボクがひなちゃんの肉球マッサージをしていると、岡村との雑談の最中でO様がふと俯き溜息交じりに切り出した。

「あの……昨日、八回目の注射が終わったんですが……」
「今後の治療方針、獣医さんはなんて仰ってました?」
「それが……その……」

言いづらそうにしているO様の心情は理解できた。

『とりあえず経過観察ですね。ですが前向きに考えて下さい。経験上、八回の注射を打ってすっかり歩けるようになった例は少なくありません』と告げた女性獣医師のその言葉を信じていたO様。
けれど今日になっても、残念ながらひなちゃんが自力で立ち上がることはまだ叶わなかった。
だから余計に不安になってしまったのだろうとボクは勝手に察していた。

「確かに、ひなちゃんが絶対に歩けるようになるとは仰ってませんし、治療方針に異議があるわけではないんです。でも……なんていうか、御二人に比べると、あの獣医さんのひなちゃんに対する態度がどうも業務的で……」

O様から聞くところによると、注射を打つ際にひなちゃんへの声掛けがないのが気になっていたらしい。
急に注射を打たれたひなちゃんが痛そうにしているのを見かねて、O様は一度

「ひなちゃん、やっぱり痛いんですよね?」

と女性獣医師に尋ねたのだという。
その返事が

「私のこれまでの経験で言えば、この状態はすでに感覚が鈍っているので本人は痛みを感じてはいません」

だったので、O様が寄せていた女性獣医師への信頼にはわずかなヒビが入った。
加えて、今後の治療方針も経過観察の一点張りだったので、O様は途方に暮れていたというわけだ。

ボクは獣医師ではないので、治療や診断はもちろんできない。

けれど、わかることはある。
ひなちゃんが喜んでるとか痛がってるとか、嬉しそうだとか寂しそうだとか。
そんなことくらいしかわからないけれど……。

マッサージを施すボクの手の中にあるひなちゃんの肉球はあたたかい。
O様がひなちゃんとササちゃんに寄せる愛情はあたたかい。
そんなことしかわからないけれど……。

拝啓 女性獣医師様

ボク達もひなちゃんとササちゃんのパートナーだからO様と同じように感じるんです。
想いに相違はないのです。
だからお願いします。
経験談や予測だけで診断や断言をしないでください。
みんな、世界で唯一の存在なんです。
この世界に、ひなちゃんはひなちゃんしかいなんです。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉