気配はゆっくりと、徐々に、私が隠れている駐車スペースへ近寄ってきました。
雨が弾ける音の変化に耳をすました結果、気配の主は傘、若しくはレインコートを着用しているようです。
とはいえ、車の後ろに隠れたままでは、気配の正体が女性なのか男性なのかまでは、判別がつきません。
それでも、覗き見ることはしませんでした。
このままやり過ごしていれば、見つかる心配はなさそうだからです。
ところが、思い通りにことは運びませんでした。
気配の主が、いよいよ、駐車スペースの前まで歩いてきた時です。
まさかのタイミングで、ずっと静かにしていたS君が、突然鳴いてしまいました。
気配の主がただの通行人であれば、S君の鳴き声が聞こえたからといって、気にも留めないでしょう。
レインコートを着用していて、そのフードを頭から被っているならば、S君の鳴き声事態、気配の主に聞こえていない可能性もあります。
ただし、気配の主が私を捜し回っている男たちの誰かだとしたら、普通よりも注意力が高まっているだろうから、そうはいかないでしょう。
お願いします!
どうか、気づかれませんように……。
全身に緊張が走った私には、祈ることしかできませんでした。
その祈りが届いたのか、気配の主は結局、駐車スペースの前を通過する際も足を止めることなく、去って行きました。
……よかった。
気配の主が誰だったのか最後まで分かりませんでしたが、さしあたって無事にやり過ごすことができたので、私は全身の緊張をほどきました。
すると、疲れがどっと出て、一気に眠気が襲ってきました。
眠気を紛らわそうと、S君が入っている捕獲器にかけていた上着をめくり、私は話しかけました。
”とりあえずは、もう大丈夫そうだよ。危なかったね”
S君は、じっと私を見上げています。
まだ、どこか緊張している様子が見受けられたので、私は会話を続けました。
”びっくりしたよ。急に鳴くなんて、どうしたの?”
”喉が渇いた”
”あ、そうだよね!”
捕獲器の中にはエサを仕掛けていたので、S君はお腹を満たすことはできていたと思います。
ただし、水分摂取はまだ、充分といえないかもしれません。
捕獲器の中には、水を入れた、ちいさいカップも仕掛けてはいました。
けれども、先ほど、捕獲器をこの駐車スペースに移動した際に、カップの中の水がこぼれてしまっていたようです。
”水、今あげるから、ちょっと待ってて”
私はショルダーバックの中から、水が入ったペットボトルを取り出しました。
〈続く〉
あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように
富山桃吉