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飼い猫様の窃盗 108

「それくらいのことなら、どうぞ、どうぞ」

玄関の中に捕獲器を置かせて頂くお願いに対し、家主様は快諾してくださいました。

「ありがとうございます!」

心からの感謝を伝えた私は、早速、捕獲器の移動に取り掛かりました。
家主様の後に続き玄関内に入り、極力邪魔にならない場所に捕獲器を置いて、それにかけていた上着を私はめくりました。

すると、S君は捕獲器の端まで寄ってきて、家主様をじっと見つめながら、まるで御礼を述べるようにちいさく鳴きました。
その御礼の気持ちが届いたかのように、家主様は穏やかな表情を浮かべ、励ましの言葉をS君にかけました。

「まあ。しっかりした子ね。もう少しの辛抱だから頑張りましょうね」

家主様のやさしさに便乗し、私もS君に約束しました。

「大人しく待っていてね。できるだけ急いで戻ってくるから」

続けて、私は上着を捕獲器にかけ直し、家主様に頭を下げました。

「それでは、よろしくお願いします」
「はい。お任せください。……とはいっても、なにをするわけではありませんけど」
「いいえ。屋内に置かせて頂くだけで助かります。それと、S君にとっての目隠し代わりにしたいので、捕獲器にかけている上着は、そのままにしておきますので」
「分かりました。S君のストレスにならないように、家族を含め、こちらも必要以上に玄関には近づきませんので」
「お気遣いありがとうございます。では、行ってきます!」
「あ、待ってください。雨、まだ降り続けそうなので、傘をお持ちください」

すでに雨に打たれていたので、はじめはお断りしようと思いました。
ただ、私を捜し回っている男たちが、近所をまだうろついていた場合のことを考え、すぐに思い直しました。
けっこうな量の雨が降っている中をびしょ濡れで歩いているよりは、傘をさしていた方が自然だからです。
加えて、傘を持っていれば、多少なりとも顔を隠すことができるので、家主様のご親切に甘えることにしました。

「ありがとうございます。では、傘をお借りします」
「お気をつけて」
「はい」

ショルダーバックを背負い直した私は、玄関を後にしました。
雨は相変わらずの勢いで降っています。
家主様宅の前の道路には、人影はありません。

私は靴紐を結び直し、家主様にお借りしたタオルを頭に巻きました。
そして、開いた傘を斜めに構え、一気に駆け出しました。
目指すは、そろそろ始発が走り出す最寄りの駅で、何事も起こらなければ、10分ちょっとで到着できる距離です。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉