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飼い猫様の窃盗 109

駆け出して間もなく、靴の中やズボンに雨が浸透してきました。
斜めにかざした傘のおかげで、辛うじて顔周りだけは雨を凌げていますが、小走りが故、それも時間の問題です。
それでも、足を止めるわけにはいきません。
私の戻りを待つS君や家主様、S君の飼い主様のために走り続けました。

最寄り駅まで、あと半分くらいの距離まで走った時、前方に、歩いている人がいました。
赤い傘をさした女性です。
ベージュ色のレインブーツを履いていて、革製だと思われる黒いバックを持っています。
見た感じ、通勤で最寄り駅を目指していると思われます。
この女性が、私を捜し回っている男たちの仲間だとは思えません。
とはいえ、用心に越したことはないので、顔の確認は諦め、私は走る速度を上げて追い抜きました。

つぎに人を見かけたのは、およそ1分弱が経過した頃でした。
その人物は、対面、つまりは最寄り駅方面から歩いてくる男性で、黒の長靴を履いています。
上下お揃いであるブルーのレインコートを着ていて、頭には、すっぽりとフードを被っているので、一目で顔の確認をすることは困難でした。
必然、私の警戒心は上がりました。
なるべく目を合わさないようにしながら、さらにまた走る速度を上げて、すれ違いました。

すれ違いざま、その男性から、声をかけられることはありませんでした。
もっといえば、私の存在に興味を抱いた様子すら見受けられませんでした。
幸いにして、私を捜し回っている男たちの仲間ではないようです。

そうこうしているうちに、最寄り駅にあるロータリーが見えてきました。
早朝ということもあってか、駅前といっても、数人の姿しか確認できません。

その数人のうち、三人は、通勤途中だと思われるサラリーマンで、皆、ビジネス用のスーツと革靴を着用しています。
もう一人は女性で、こちらもまたビジネス用のスーツを着ていました。
履いている地味なヒールもビジネス用に見えることから、同じく通勤途中なのでしょう。

ロータリーの周りにはコンビニエンスストアが一軒あるのですが、その店内のレジに、男性店員が一名、立っていました。
店内にはもう一人いて、そちらはお客の男性でしょう。
茶髪にラフな服装をした彼は、雑誌が置かれているコーナーで立ち読みに没頭していて、私には見向きもしません。

家主様宅を出てから最寄り駅に着くまでの間に姿を確認できたのは、以上の人物たちでした。
どの人物も、私にとって脅威となり得るとは思えませんでした。

ただし……です。
一点、気になることがありました。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉