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飼い猫様の窃盗 111

電車のドアは今度こそ閉まり、速やかに発車しました。
発車ぎりぎりを待って電車に乗り込んだ何者かは、私が乗車している車両とはべつの車両から乗車したので、現在位置はどこなのか定かではありません。
男なのか女なのかも分かりませんし、年恰好も服装も不明です。
要するに、現時点では、正体を掴むことが極めて難しいという状況といえます。

尾行されているのかもしれない……。
誰だ……。
誰だ……。
誰だ!?

疑心暗鬼に駆られた私は、車内を鋭い目つきで見渡しました。
前後の車両も含め、こちらの車両に歩いてくる人物やこちらの様子を気にしている人物を、くまなくチェックしました。
どんなに上手く振る舞っていたとしても、私を尾行しているならば、私の動向が見える位置にいなければならないはずだからです。

しかしながら、居眠りをしている者やスマフォをいじっている者、ドア越しに流れる景色をぼおっと見ている者たちをはじめ、私が確認できる範囲にいる者たちは皆、怪しさを醸し出している様子はありません。
ごく普通に、それぞれが振る舞っているようにしか見えませんでした。

となると、尾行者はまだ離れた車両にいて、乗車している人間を確認しながら移動している可能性が考えられます。
全車両を見て回るならば、先頭車両か最後尾の車両から順番にチェックをしているはずです。
いずれ、私が乗車している車両にやってくることは避けられません。

その前に、どうにかしなければ……。

私は動揺する自身の心を叱咤し、考えを巡らせました。
そのうちに、車内に流れたアナウンスが、間もなくつぎの駅に到着する旨を伝えました。

そうか……よし!

私はひらめき、こちらの車両に歩いてくる人物がいないかどうか、前後の車両をもう一度確認しました。
特段の変化は見られません。

電車は速度を落とし始めました。
まだ、前後の車両ともに、尾行者らしき人物は現れません。

よおし……このまま……このまま……。

祈りを込めていると、つぎの駅のホームに電車は滑り込み始めました。
すると、同じ車両にいた気の早い一人の男性が座席を立ち上がり、電車のドアに向かって歩き出しました。
後ろの車両でも、同様の行動をとるカップルがいました。

その時です。
カップルがいる車両よりも二つ向こうに繋がる車両から、こちらに向かって歩いてくる男の姿がありました。
まだ遠くて顔ははっきり分かりませんが、乗車している一人一人の顔をチェックしているようで、男は時折、首を左右に動かしています。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉