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飼い猫様の窃盗 112

電車は直に、ホームへ停車しました。
開いた電車のドアから降車する人数よりも、乗車してくる人数の方が多いので、一人一人の顔をチェックしながら歩いてきた男を、私は見失いました。

まずいな……。

それでも、男にしたって状況は同じはずです。
瞬時に冷静さを取り戻した私は、男が歩いてきた車両とは逆の方向の車両へと歩き出しました。
そして、再びドアが閉まるぎりぎりのタイミングを待って、ホームに降りました。
続けざまに首を振って確認したところ、同じタイミングで降車した人物は、私以外にいませんでした。

尾行者かもしれない男を乗せたまま、電車は走り出しました。
横目で車窓を見送ると、私が降りた車両に、男の姿がありました。
相変わらず、乗車している一人一人の顔をチェックしながら歩いています。

さて、どうしたものか……。

尾行者かもしれない男の追跡をかわしたものの、このままつぎの電車に乗車していいものか、私は悩みました。
全車両の乗車人物チェックを終えても、私の姿がないことに気づけば、男は焦るでしょう。

そのタイミングがつぎの駅に到着するまでなのか、そのつぎの駅に到着するまでなのか、はたまたそのつぎの駅に到着するまでなのかは分かりません。
いずれにせよ、それまでに通過した駅のどこかで私が降車したことを知った時、男がどういった行動に出るのかを予想しました。
とくに、私に尾行をまかれたと男が考えた場合について、考えを巡らせました。

辿り着いた結論として、男はおそらく、すでに通り過ぎた駅に戻る電車には乗り込まないでしょう。
私が降車した駅がどの駅なのか、はっきり知ることは不可能だからです。

だとしたら男は、私が降車済みだという事実に気づいた時点で、つぎに停車する駅に降りるはずです。
そして、その後にやってくる電車に乗車し、再び私を捜し出すために、全車両の乗車人物チェックを行うと思われます。
男の方からすれば、その電車に必ずしも私が乗車していると断定できないわけですが、かといって、ほかに手立てはないからです。
私の住まいやS君の飼い主様が入院している病院の場所までは、さすがに突き止められない以上、男にできる行動は、しょせんその程度でしょう。

この結論を鑑みて、私はつぎの電車に乗ることにリスクを覚えました。

電車よりも時間がかかるけれど、やむを得ないな……。

私はホームを後にし、改札を抜けました。
そして、そのまま歩みを止めることなく、タクシー乗り場へ向かいました。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉