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飼い猫様の窃盗 113

雨が降り続けているタクシー乗り場には、幸いにして空車を掲げた数台が停まっていました。
その上、乗車待ちをしている人もいません。
それでも念のため、タクシーに乗り込む前に、一度周囲を見回し、尾行者らしき人物がいないことを私は確認しました。

乗車してすぐ、頭から垂らしていたタオルを取ると、ドライバーに行き先を尋ねられました。
当初の予定では、S君の飼い主様が入院している病院に直行するつもりでした。
一刻も早く、S君の現況を知らせたかったからです。

しかしながら、尾行者らしき人物の存在が明るみになったので、予定を変更することにしました。
先に自宅に寄って服装を変え、電車内にいた尾行者と鉢合わせたとしても気づかれにくくしようと考えたのです。
そんなわけで私は、自宅付近の住所をドライバーに告げました。

タクシーに乗ってから10分が過ぎた頃です。
疲労でウトウトしかけている最中、S君の飼い主様から着信がありました。
私がドライバーに断りを入れ、通話をはじめた途端、S君の飼い主様の歓喜を帯びた声が耳に入ってきました。

「もしもし! 頂いたメール、読みました! ありがとうございます!」
「いえいえ。S君の無事発見・保護がかなったのは、飼い主様が諦めなかった結果です。もちろん、S君自身も頑張りました。とにかく、おめでとうございます」

込み上げるものを抑えきれなかったのでしょう。
飼い主様は嗚咽なさいました。
そんな飼い主様の気持ちが落ち着くのを充分に待って、私はいいました。

「それでですね、S君の現況をお伝えしますと……」
「あ……」

私にいわれて、今初めて気づいたらしく、飼い主様は聞いてきました。

「Sは今、どこにいるんですか!?」
「雨が降っていますが、ご安心を。ご協力頂いた、親切な方の玄関内にいます」
「そうですか。よかった」

なぜ、今現在、S君の傍にいないのか、私は事情説明を加えました。
伝え終えるまで適当な相づちで応じていた飼い主様は、私の説明に理解を示してくれました。

「そんな経緯があったんですね……」
「はい。ですので、私は一度自宅に寄ってから着替えを済ませ、その足でそちらの病院に向かいます」
「分かりました。お待ちしています。ついでに、少し休まれてからいらして頂いても結構ですよ。お疲れでしょう? 雨にも濡れていらっしゃるようですし」
「お気遣い、ありがとうございます。では、シャワーだけ浴びさせてもらってから伺います」
「どうぞ、どうぞ。それでは、後ほど」
「はい」

電話を終えた私は、タクシーが自宅付近に到着するまでの間、しばしの仮眠をとりました。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉