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飼い猫様の窃盗 119

「……では、そろそろ行きましょうか」

S君の飼い主様と家主様の感動が極みの峠を越え、次第に穏やかさに包まれた雰囲気に変わった頃合いを見計らって、私は促しました。

「そうですね。捕獲器の中から、この子を早く出してあげなければ、かわいそうですものね」

家主様の気遣いに対し、S君の飼い主様はあらためて御礼を述べられました。

「本当にお世話になりました。ありがとうございます」

S君の飼い主様に合わせて私も頭を下げると、家主様もお辞儀で返されました。

「じゃあ、S君。もう一度暗くなるからね」

私は手早く捕獲器を毛布でくるみ、それをロープで縛りました。

「では、参りましょうか」
「はい。失礼します」

捕獲器を抱えた私とS君の飼い主様は、家主様宅の玄関ドアをくぐりました。
降り続いていた雨は、いつのまにか上がっています。

訪問時に玄関脇に立てかけておいた傘を手に取り、私はいいました。

「これ、お借りした傘です。おかげで、濡れずにすみました。ありがとうございました」

私から傘を受け取ると、家主様は、

「それは良かった。それじゃあ、お気をつけて」

と見送ってくれ、別れの時は去りました。

家主様宅前に横付けされていた車の脇に私が立った直後、S君の飼い主様が、車のドアロックを解錠してくれました。
そのタイミングで、私は一つの提案をしました。

「S君を車に乗せて、そのまま二人でご自宅に向かってください」
「一緒に乗って行かれないのですか?」
「私を捜し回っている男たちに対して、最後まで気を抜くわけにはいきませんので。周囲の様子を伺いながら、歩いて追いかけます」
「念には念をですね」
「ご自宅に着いたら捕獲器ごと室内に入れて、私を待つことなく、S君を解放してあげてくださって結構ですので」
「分かりました。では後程」

私が後部座席に捕獲器を乗せると、S君の飼い主様は運転席のドアを開けて車に乗り込み、まもなく発車しました。

さてと!

短く息を吐き、気合を入れ直した私は、周囲を見回しました。
怪しげな人影は見当たりません。

それでも、最短ルートを避けて、迂回ルートを選択し、S君の飼い主様宅を目指すことにしました。
なぜならば、迂回ルートの道路上に、白黒ブチ柄の猫様が居たからです。
S君捜索で散々歩き回ったこの周辺ですが、その白黒ブチ柄の猫様は、これまでに見たことがない猫様でした。

私がじっと見つめていると、白黒ブチ柄の猫様はまるで、

”こっちから行きなよ”

といっているように、尻尾を振りました。

ひょっとして、導いてくれているのかもしれない……。

そんな気がした私は、素直に従いました。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉