「ところで、普段のお出掛けの際は、S君をどうなさっていたのですか? こうやって、寝室でお留守番なのですか?」
私の質問に、S君の飼い主様は首を横に振りました。
「……いいえ。いつもは、自由にさせていました」
「というと、寝室のドアは開けっ放しで?」
「そうです」
「でしたら、そうしてあげませんか?」
「でも……」
「以前と変わらない生活スタイルの方が、S君も落ち着くでしょうし。それに岡村なら、私が忠告せずとも、玄関ドアの開け閉めの際には細心の注意を払いますので」
それに加えて、岡村自身も保護猫三匹と暮らしています。
ですので、わざわざ私が忠告せずとも、玄関ドアの開け閉めの際には細心の注意を払い、それ相当な気を配っています。
そのことを伝えると、S君の飼い主様は本音を仰いました。
「では……やっぱり、Sを自由にさせてあげたいです。寝室に閉じ込めっぱなしは、かわいそうなので……」
「分かりました」
「お願いします」
笑みを浮かべたS君の飼い主様は、リビングの壁に掛かった猫型の時計に目をやりました。
「もう、病院に戻らなきゃ……」
「そうですね。行きましょう」
二人で玄関まで来たところで、S君の飼い主様がいいました。
「寝室のドアを開けますね」
「はい。どうぞ」
寝室のドアノブを掴み、ゆっくりとドアを開けたS君の飼い主様は、やさしい声音でS君に声をかけました。
「今度こそ出掛けるから、お留守番よろしくね」
ところが、S君はベッドの上で昼寝をしていて、微動だにしません。
すると、S君の飼い主様の表情が、だんだんと不安の色を帯びていきました。
「……S、もしかして、どこか具合が悪いのかな……」
そういって寝室の中に足を踏み入れた途端、S君は目を開けて、大きなあくびをしました。
そして、ベッドの上からひょいと飛び降り、何食わぬ顔で水を飲み始めました。
S君の飼い主様の顔には、笑みが咲きました。
「……大丈夫そうだね。よかった。じゃあ、病院に戻るからね!」
「またね、S君。元気にのんびりと暮らすんだよ」
私の言葉に振り向いたS君は歩き始め、そのまま玄関ドアを横切ろうとしました。
その際、私の足にわざと身体をこすりつけながら進み、リビングへと向かっていきました。
「まったくもう、Sはいつも、あんなふうなんですよ。こっちの気も知らないで、どこまでもマイペースなんです」
S君の行動にホッとしたのか、S君の飼い主様の声には活力さを感じました。
その活力さをそのままに、
「では、行きましょう!」
と私を促しました。
私たちは、それこそ細心の注意を払いながら玄関ドアを開け閉めし、車に乗車しました。
〈続く〉
あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように
富山桃吉