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飼い猫様の窃盗 63

「では、そろそろお暇致します」

この後に別件の仕事の予定があったので、S君の飼い主様に私は告げました。

「お忙しいところ、ありがとうございました」
「では……」

私が病室を出ようとしたところで、飼い主様がいいました。

「あの……」
「はい?」
「Sの捜索依頼を、正式に引き受けてはもらえませんか?」
「……」

飼い主様からのご依頼を承ることは、やぶさかではありません。
ですが、心無いペット探偵への依頼金や入院費で出費が重なっている状況であろうことは想像に難くないので、即答ができない私がいました。
余計なお世話かもしれませんが、そんなことを考えて無言でいた私に、飼い主様は不安そうな表情を向けてこられました。

「……お引き受けは、難しいですか?」
「いえ。私が力になれることがあるならば、もちろん、全力でやらせて頂きます」
「でしたら、お願いします! どうか、Sを捜す手伝いをしてください!」

飼い主様の覚悟がひしひしと伝わってきて、その想いを鼻であしらうことこそが、私には難しいことでした。

「分かりました。100%の無事発見・保護を約束することは出来ませんが、S君の捜索のお手伝いをさせて頂きます」
「ありがとうございます!」
「その代わりに」
「……なんでしょうか?」
「もう一度、明るい時間帯に捜索現場を歩かせてください。実際の捜索着手は、その後でよろしいでしょうか?」
「急な依頼ですから、こちらは構いませんが……。それだと申し訳ないので、その日の分も、捜索代を支払わせてください」
「いや。捜索現場に伺うのは、そちら方面での用事のついでに寄らせてもらうだけですから。どうぞ、お気になさらないでください」
「そうだとしても……」
「いや。そうさせて頂きます。捜索現地の事前の下見は、S君の無事発見・保護の確率を高めることに繋がるので」

私の頑固さに、飼い主様は渋々、了承してくださいました。

「では、捜索実施日については、明後日に現地を歩かせてもらった後、ご連絡を差し上げますので」
「はい。お待ちしております」

記載されている内容にも不備は見当たらない上、費用を抑えることにもなるので、S君捜索用のチラシ・ポスターは、飼い主様が作ったものを使用することにしました。
これまでの捜索経緯を書き記した地図などの資料類は、飼い主様が病室に持参していたのでコピーさせてもらい、それを私が預かりました。

こうして。
私が、S君の捜索に着手することになったのです。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉