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飼い猫様の窃盗 67

エサやリ男性は、徒歩で現れました。
アルミホイルに包まれたドライフードをトートバックから取り出し、遊歩道の脇にさっと置くその姿は、警戒心の塊といった具合でした。
その警戒心の高さは予想以上だったので、気をつけなければ、危うく逃げられてしまいそうです。

私は慎重に慎重を期して、遠目から声をかけました。

「おはようございます」

エサやリ男性は瞬時に固まり、踵を返しました。

それを引きとどめるために、私は自分のバックの中から猫様用のドライフードを引っ張り出して、つぎの言葉を投げました。

「申し訳ありませんが、お手伝いを願えませんか?」

私自身もエサやリをしているかのように見せかける作戦は、功を奏しました。
立ち止まったエサやリ男性の視線は、私が手にしている猫様用ドライフードに注がれています。

「……手伝うって、何を?」

この機会を掴むべく、私は矢継ぎ早にS君の捜索用チラシを手に取り、事情を話しました。

「そうなんだ……。そのチラシ、もっとよく見せて」

私が手にしているS君のチラシを手にし、それに目を落としたエサやリ男性は、少しの間凝視した後、興味深い情報を提供してくれました。

「……オレ、この猫知ってるかもしれない」

『この猫で間違いない!』と断言をなさる場合にも共通したことですが、こういう言い方をする目撃証言の場合はとくに、慎重に話を聞かなければなりません。
私の話の進め方如何によっては、誘導尋問になりかねないからです。

捜索対象の猫様かどうか判別するには、やはり、自分自身の目での確認が必須なのはいうまでもありません。
そうはいっても、このエサやリ男性の目撃証言は貴重です。
ですので、エサやリ男性が主導して話をしてくれるよう、余計な私見を挟まないようにしながら、私は聞き手役に専念しました。

「あの……『知っているかもしれない』とは、どういうことでしょうか?」
「うん。たぶん、間違いない。見たことある」
「いつ頃、どこで、お見かけになったのでしょうか?」
「その前に……」

エサやリ男性は近隣住民の目を気にし、出来るだけ早く、この場から離れたい意思を私に伝えてきました。

「ちょっと、あっちまで行こう。ついてきて」
「分かりました」

遊歩道沿いを歩いた後、エサやリ男性は住宅街に入りました。
その間は無言で、私はただただ、ついていきました。

しばらくすると、駐車場に辿り着きました。
位置関係としては、ちょうど、S君らしき猫様が目撃されたタバコ屋さんの裏通りでした。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉