新着情報

飼い猫様の窃盗 7

大柄の男の思惑に気づく様子もなく、やせ細った男は満面の作り笑いを私に投げかけてきました。

「今すぐ、車をどかしますから。大丈夫」

どうやら、私が駐車違反を咎めようとしたと考えているようです。
けれども、それは、”大丈夫ですか? なにかお困りのようでしたが?”と私が声をかけた内容の返事としては的を外れています。

察しが良い大柄の男はそれに気づいているらしく、すぐさま会話の修正をしてきました。

「ちょっとエンジンの調子が悪かったもので。でも、もう大丈夫です。ありがとうございます」

丁寧なお礼とお辞儀と空笑いの三点セットは、低姿勢のアピールのつもりでしょう。
ですが、その実、”一刻も早く立ち去れ”という強いメッセージだと、私には感じられました。
とはいえ、それをストレートに伝えるわけにはいかないので、私はこう受け答えしました。

「そうなんですね」

意図して短く切った反応を待つ私に、大柄の男が畳み掛けてきました。

「ありがとうございました」

言い切りの形ほど、会話を続けるのに困難なものはありません。
相手は、この後の会話を望んでいないのが明白です。

互いに無言の時間が流れる中、私に残された選択肢は、このまま会話を終了して大人しく立ち去るか、べつの話題を見つけるかしかありません。
もちろん、前者の選択をすることは問題の解決に繋がらないので、私は必死で話題を探しました。

それにしたって、です。
男たちとは知り合いでもなければ、肯定的な関係ではない以上、適切な会話をピックアップするのは極めてハードルの高い作業でした。

そんな私の焦りを見逃さず、大柄の男は余裕げに佇んでいます。
その傍らで、やせ細った男はいつの間にか、作り笑顔に嘲笑の色味を加えていました。

そこで、気になることがふと頭に浮かびました。

続ける会話を見つけられていない現状、私よりも思惑通りの展開のはずなのに、この二人はなぜ、すぐに立ち去らないのだろう……。

私は考えました。
良くない目的で猫様を捕獲している前提で、もしも自分が彼らの立場だとしたら、一刻も早くこの場を離れたいと思うはずです。
いつまた、バンの中の猫様が唸り、暴れ出すか分からないからです。
そうなれば、猫様を捕獲して積み込んでいることが私にバレてしまい、厄介な展開に巻き込まれてしまう心配が出てきます。

なのに、彼らは急いでこの場から離れようとしないのが不思議でした。

私に顔を見られたから?
私に車を見られたから?

いずれも見当外れではないでしょう。
ただし……。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉