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飼い猫様の窃盗 71

「もう少しだけ、お伺いしたいことがあるのですが」
「いいよ。何?」
「現在お住まいのアパートには、もう長いのですか?」
「長いね。十年近くになる」
「じゃあ、この辺の立地には、さぞかしお詳しいでしょうね」
「まあね。潰れた店とか、前にはなかったマンションとか、色々詳しいと思うけど」
「十年前から、ベランダでエサやりをなさっているのですか?」
「いや。エサやリを始めたのは、二年前くらいから。遊歩道の脇のエサやりも、そうだけど」

となると、周辺に生息している野良猫様たちを見かけたことがある数が相当なのは、間違いなさそうです。
十年前と今現在を比べて、周辺の野良猫様の数が増えているのか減っているのか……気になって尋ねた私に、エサやリ男性は答えました。

「減ってるよ。確実に」
「そうですか……。では、最近、急に見かけなくなった子はいますか?」
「うちのベランダに来てる猫たちに関しては、そんなことない。でも、いわれてみれば、ほかの場所でよく見かけてた猫を見なくなったなあ……」
「そうですか……」
「でも、タイミングの問題だけかもしれないし」
「まあ……そうかもしれませんよね」
「ところでさ、野良猫の寿命は、家猫の寿命よりも短いのは知ってるよね?」
「はい。感染症やケガ、交通事故などのリスクはさることながら、満足するほどの食にありつくのも楽ではありませんし」
「そう、そう。だから、お腹一杯にはならないかもだけど、餓死しないように、せめてエサだけはあげたいと思ってさ……」

いいながら微笑んだエサやリ男性の表情に悲嘆の色が滲んだのを、私は見逃しませんでした。

「オレさ、二年前くらい前まで、猫を飼ってたんだよね。遊歩道の脇で保護した、ガリガリの野良猫。こいつがさ、全然なつかない猫でさ。毎日エサをやって、快適な寝床を用意してやったっていうのに、薄情者だよな、まったく」

成猫様を保護なさった方の大抵が、同じような経験をするのは珍しくありません。
だからといって、愛情がかけられずに見捨てることをしないのもまた、成猫様を保護して共に暮らす方々に共通するやさしさなのを、私は知っています。

エサやリ男性は、ご自分と暮らしていた猫様の話を続けました。

「笑っちゃうよな、まったく。二年前くらいに亡くなったんだけどさ、結局、ずっとなつかなかったんだよ。でもさ、最後は、オレに抱っこされながら息を引き取った。撫でられるのなんて、好きじゃなかったくせに……」

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉