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飼い猫様の窃盗 75

S君!!!
心の中で叫びながらも、冷静さを失わないよう、懸命に堪えました。
この状況で重要なのは適切な行動判断で、私の歓喜など、どうでも良いからです。

幸いにして、あたかも風景のように溶け込んで動かない私の存在に、S君はまだ特段の警戒心を抱いていないようです。
だからといって、私の動き一つでS君の警戒心を発動させてしまう結果になるのは、火を見るよりも明らかです。

今優先するべき適切な行動の選択とは、なにか――
考えはすぐにまとまりました。

決して諦めずに、ここまでずっと粘り強く捜索をしてきた結果、念願かなってその姿を目視できたS君を、今すぐにでも保護したい想いは山々です。
ですが、私は知っています。
発見した迷子ペット様を強引に捕まえようとして失敗し、その後、彼らを再び行方不明にさせてしまった飼い主様たちの後悔を……。

加えて、S君にすれば、私は見知らぬ人間です。
初対面の人間がいきなり手を伸ばせば、恐怖以外の何物でもありません。
よって、今すぐに保護するという選択は不適切だと判断しました。

先ずは、S君がエサを食べ終わるのを待ちました。
この場所でエサを食べることに、安心と安全を覚えて欲しかったからです。

つぎに起こすべき行動は、S君の姿を撮影することです。
静止画でも動画でも、S君の一応の生存を確認できれば、それまで飼い主様を襲っていた不安感・焦燥感を少しでも和らげることに繋がるからです。

ただし、この状況では、静止画よりも動画の方が適していると思いました。
ただでさえ暗がりの茂みの中、鮮明な静止画を撮ろうとしてブレないように何度もシャッターを切り直す動作が、S君の警戒心を煽ってしまいかねない故です。

私はS君がエサを食べ終わったタイミングを見計らって、予め準備していた動画の録画スイッチを押しました。
細心の注意を払っているとはいえ、私のその動きに素早く反応し、S君はこちらを凝視してきました。
おかげで、その表情と首輪の撮影に成功しました。

S君がこちらを凝視している間、私は微動だにせず、撮影を続けました。
やがてS君は、私から視線を外し、茂みの奥へと歩き出しました。

それをすぐに追いかけることはしないで、S君の足音が聞こえなくなってから、ようやく私は動き出しました。
この日までの捜索努力の賜物で、S君が向かった先の立地状況は把握しています。
ですので、S君を直接的に追わず、遠回りすることに決めました。
公園を出た後に、S君がどこに向かうのかを知ることが、今後の捜索範囲の絞り込みに役立つからです。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉