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飼い猫様の窃盗 80

茂みの中、極力足音を立てないようにしながら、歩みを止めないキジ白猫様について行くのは簡単とはいえませんでした。
そんな私に配慮してくれているのか、私との距離が開きすぎると、キジ白猫様は立ち止まって、こちらを振り返ってくれます。

何度かそれを繰り返した後、キジ白猫様は茂みを抜けた先の道の上でごろりと横になり、お腹を見せました。
深夜帯で人通りはありませんし、公園内の歩道なので車に轢かれてしまう心配はありませんが、それにしたって警戒心の欠片もないキジ白猫様の姿に、私は思わず頬を緩めてしまいました。

”ん? 早くついてきて欲しかった理由は、その姿を見せたかったからなの?”

私の言葉を肯定も否定もせず、キジ白猫様は穏やかにグルーミングを始めました。
その仕草につられて茂みを出た私の意識は、ピンと張りつめたものから、わずかに弛みました。

刹那、私の右耳に、

「うわあっ!」

という頓狂な声が突き刺さりました。
顔を向けて確認せずとも、その声質から、男の声であることは明白です。

……しまった!

私を捜し回るやせ細った男なのかニット帽を被った男なのか、はたまた大柄の男がいつの間にか公園内にいたのか……。
声だけでは判別できませんでしたが、例の男たちの誰かに見つかってしまったと思い、私は顔を上げないまま息をのみました。
自業自得とはいえ、油断した自分を責めながらも、このピンチから如何に退避できるかの手段を、瞬時に探りました。

1、男に顔を見せないままに無言を貫き、ゆっくりと立ち去る
2、初対面かのように知らん顔をつき通し、適当な会話で男を油断させ、その隙に脱兎のごとく走って逃げる
3、猫様を乱獲していた証拠画像を見せつけ、今後の私の身の安全を約束させる取引を持ち掛ける
4、同じく証拠画像を見せつけ、今すぐ警察に通報する旨を告げ、速やかに立ち去らせる
5、怯むことなく立ち向かい、場合によっては強い態度で臨み、自ら立ち退かせる
6、あらん限りの悲鳴を上げ、周囲に助けを求めて男を焦らせ、逃走させる

上記のどれかに絞ろうとしていると、キジ白猫様が欠伸をしながら鳴きました。
それがあまりに呑気なものだったので拍子抜けし、おかげで冷静さを取り戻せました。

私は横目で、男が履いている靴を確認しました。
サンダルです。
履いているズボンは、ダボダボした感じのものです。
これならば追いかけっこになっても逃げ切れると判断し、『2』を選択することに決めました。

いつでも走り出せる体勢を意識しながら、私自身も驚いた表情を作り、声の主に向かって顔を上げました。

「……アハハ。すみません。驚かせてしまいましたよね」

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉