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飼い猫様の窃盗 86

前回ブログ『飼い猫様の窃盗 85』で綴った違和感と疑心を確信に変えるため、電話をかけてきた男性に、今度は私から訊ねました。

「……お電話頂き、ありがとうございます。それで、早急に話したいこととは、何ですか?」
「迷子の猫の件ですよ。飼い猫を捜してるんですよね?」

S君は私の飼い猫ではありませんが、狙いを探る目的で話を合わせました。

「はい。残念ながら、姿すらまだ見つけられずにいます。もう、心配で心配で……」
「そうなんですか。実はですね、今さっき似ている猫を見かけたんですよ」
「本当ですか!? どこで、でしょう?」
「申し訳ないんですが、たまたま通りかかった道の途中なので、上手く説明できないんですよ」
「そうですか……」
「あ、でも、今ね、狭い隙間に入ったきり出てこないから、捕まえるチャンスだと思いますよ」

場所をはっきりといわずに、現地に誘導しようとしている感じがありありです。
その誘導に、あたかも興味を抱いている体で、私はさらなら詳細を求めました。

「あの……うちの猫で間違いありませんか?」
「絶対にそうです。チラシに写っている写真と同じ首輪をしてました」

この暗がりで、ふいに現れた猫様の首輪の色や形を、はっきりと確認できるとは思えません。
それでも、疑っていると悟られるわけにはいかないので、私は引き続き調子を合わせました。

「それは良かったです!」
「早く、捕まえてあげてください」
「……けれど、場所が分からないことには……」
「飼い主さんは、今どちらにいるんですか?」
「ちょうど、今から捜しに出掛けようと、自宅で準備をしていたところです」
「だったら、目印を教えてもらえれば、お宅まで行きますよ」
「ありがたいのですが、ご面倒をおかけしてしまいますので……」
「気にしないでください。一刻を争う事態ですし。で、ご自宅付近の目印は何ですか?」

予想通りの食いつきなので、あえて、いなしてみました。

「お気遣いありがとうございます。ですが、うちの猫、入ってしまった隙間から、また出て行ってしまうかもしれません。ですので、ご面倒をおかけしているついでに、そのまま見張ってて頂けませんか? すぐに私が現地に向かいますので」

電話相手の男性は、しばしの間、黙りました。
狙い通りにことが運ばず、いらついているのかもしれません。

だとしたら、このまま電話を切られる可能性がありますが、そうだとしても、後悔はありません。
むしろ、電話相手の男性に対する違和感と疑心が確信に変わるだけなので、私は自信を持って、つぎに発せられる言葉を待ちました。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉