「……あのですね。実はですね……。私、恥ずかしながら迷子になってしまいまして。この辺りに詳しくないのです」
いかにも迷子であるかのごとく、ちらりと周囲を見回しながら困惑の表情を作った私は、さらに付け足しました。
「ですので、是非とも、お二人に道案内をお願いしたいと思いまして……」
瞬間、右眉だけをピクッと上げた大柄な男がいいました。
「スマフォを使って、地図を調べたらいいんじゃ?」
「そうしよと思ったんですがね……充電が切れてしまって、調べられないんですよ」
私の返事を聞くと、大柄な男は右手の中指で、自分の左頬を掻きました。
そのまま言葉を発さないので、私は聞きました。
「車の中に地図を載せていたりしませんか? お持ちでしたら、見せて頂ければ自力で帰れますので」
「……ない」
「そうですか……」
私が、あえて会話の間を置いていると、大柄な男は再び、右手の中指で、自分の左頬を掻きました。
「あっ、そっか!」
何かを思いついたような声をあげた私を見て、大柄な男は右眉だけをピクッと上げていいました。
「……なんだ?」
「お持ちのスマフォで、地図を調べてもらえませんか?」
「いや。オレは、ガラケーしか持ってない。こいつは、携帯電話すら持っていない」
いわれた側のやせ細った男は、二回も頷きました。
しかしながら、彼らはウソをついています。
先ほど、大柄な男が電話をしていた際に使用していたのは、ガラケーではなく、確かにスマフォでした。
私はめげずに、会話を続けました。
「そうですか……」
またも、私は、あえて会話の間を置きました。
すると、大柄な男はやはり、右手の中指で、自分の左頬を掻きました。
間違いありません。
この仕草で、確信を持てたことがありました。
大柄な男は、極度に焦れると、無意識的にその仕草をとってしまうようです。
また、右眉だけをピクッと上げる仕草を見て取れる時は、平静を装えない状況に直面している証拠です。
それらのクセを知れたおかげで、彼らとの今後の会話において、多少のアドバンテージを握れそうです。
私は、何かを思いついたような声を繰り返しました。
「あっ、そっか! カーナビがありますね!」
予想通り、大柄な男は、右眉だけをピクッと上げました。
そのまま、右手の中指で、自分の左頬を掻いています。
それもそのはず。
バンのフロント越しとはいえ、今私が立っている場所からでも、車内に後付け設置されたカーナビの存在を確認できるからでした。
〈続く〉
あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように
富山桃吉